火星内部の混沌が教えてくれる「生命惑星」へのヒント

今回の発見により、火星はまさに「失われた原始惑星時代」の姿を内部に保存している“化石惑星”である可能性が改めて示されました。
地球ではプレート運動やマントル対流によって内部が絶えずリセットされてきましたが、火星では内部活動がきわめて緩やかだったために、形成直後の「壊れた」状態がそのまま残っていたのです。
研究チームによれば、こうした混沌の混合が主に最初の1億年ほどに起きた可能性が指摘されています。
そしてその痕跡が約45億年経った現在まで残存していることになります。
研究チームは、火星マントル内部の古い混沌の特徴が「惑星のタイムカプセル」のように保存されていると述べています。
この事実は、太陽系内の他の岩石惑星(金星・水星など)や、遠く離れた太陽系外惑星の理解にも大きな影響を与えます。
金星や水星には火星と同様にプレートテクトニクスが存在しないため、火星のように内部に過去の大衝突の痕跡が潜んでいる可能性があります。
また、活発な地球と静かな火星という対照的な例を比較することで、惑星内部の活動がその進化や環境に及ぼす影響を考える手がかりにもなります。
さらに、惑星内部の進化の違いは、その星が生命を育む環境になり得たかにも影響を与えると考えられています。
地球では外核の対流(液体金属の流れ)が地磁気を生み大気を維持しましたが、火星は外核のダイナモ(液体金属が対流する仕組み)が弱まったことで磁場を失ったと考えられ、それが大気を失う原因のひとつとなった可能性があります。
この内部に残された「時間カプセル」を解読することで、惑星の居住可能性(ハビタビリティ)について新たな手がかりが得られるかもしれません。
火星というお隣の星は、地球には残されていない太古の記憶を今なお秘めているのです。
その記録を読み解くこれからの惑星探査や宇宙科学の展開がますます楽しみになる発見だと言えるでしょう。