画像
従来の理論を改良し、生物の「美しく不完全な模様」を再現 / Credit:Canva
physics

生物の模様はなぜ”美しく不完全”なのか?「反応拡散系」に新要素を追加し再現 (2/2)

2025.11.06 20:00:34 Thursday

前ページ動物模様の再現に挑む!従来のモデル「反応拡散系」とは

<

1

2

>

反応拡散系を改良し、「美しく不完全」な動物模様の再現に成功

まず研究チームは、2023年に反応拡散系に新しい要素「diffusiophoresis」を加えました。

これは、拡散する粒子が他の粒子を引き寄せる現象を指します。

身近な例でいうと、洗濯で洗剤が洗濯物から水に広がるとき、汚れが布から引き出される原理と同じです。

この効果を加えることで、たとえばオーストラリアのハコフグに見られる六角模様のような「輪郭のシャープな模様」を計算機上で再現できるようになりました。

しかし、ここで新たな課題も見えてきました。

それは、「模様が完璧すぎてしまう」という点です。

六角形がすべて同じサイズや形で、間隔もピッタリ等間隔になってしまい、実際の動物の模様にあるような“自然なばらつき”や“線の途切れ”、“粒々の質感”までは出てこなかったのです。

そこで今回、チームはさらにモデルを進化させました。

新たな改良点は、「細胞(粒子)にそれぞれ違う大きさを与え、個々が重ならない“硬い球”として扱う」ことです。

イメージとしては、大きさがバラバラなピンポン球が細いチューブを流れていくようなものです。

大きい球は小さい球より太い輪郭線を描き、時に球同士が詰まって流れが途切れますが、似たような現象を細胞に生じさせるのです。

実際、細胞同士がぶつかって詰まったり、大きい細胞が集まって太い線や模様を作ったり、小さい細胞が集まって細い線ができたりと、現実の生物の模様にある多様な“ズレ”や“粒状感”が自然に生まれるようになりました。

さらに、細胞の大きさ分布や移動速度、粒子の密度などのパラメータを調節することで、模様の太さやばらつき、粒々感の強さをモデル上で自由に再現できることも示されました。

研究者は「細胞にサイズを与えるだけで、模様の破綻や粒状テクスチャが現れる」と強調しています。

この仕組みの発見は、生物の模様の不思議を解き明かすだけでなく、今後は「周囲の環境に応じてや模様を変える布や材料」、「指定した場所だけに薬を届ける新しい医療技術」、「自己組織化するソフトロボット」など、幅広い応用のヒントにもなります。

研究者は「私たちは自然の“不完全な美しさ”から着想を得ており、この不完全さを新しい機能に活かしたい」と語っています。

動物の模様が“美しく不完全”である理由は、細胞や粒子の大きさや動きのばらつき、そのちょっとした偶然が重なり合って生まれる自然の奇跡です。

科学は今、その“ゆらぎ”の秘密を、数理モデルで明らかにしつつあります。

<

1

2

>

コメントを書く

※コメントは管理者の確認後に表示されます。

0 / 1000

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

物理学のニュースphysics news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!