・テムズ川で、約500年前の男性の遺体が発見された
・テムズ・タイドウェル・トンネルの建設にともなう、下水汚染を止める工事の最中に見つかった
・防水長靴のような履物を身につけ、特徴的な歯の抜け方をしていることなどから、川の周辺で漁師などの肉体労働に従事していたと推測
時効も真っ青な年月。
ロンドンを流れるテムズ川の底から、約500年前に亡くなったと思われる男性の遺体が発掘されました。ミステリアスなこの遺体、一体どのような人物だったのでしょうか?
発見された時の状態などから、生前は漁師や沖仲仕として、または川底に沈んだ貴重品などを見つけて売ることで生計を立てていた人物ではないかと考えられています。
発見時、遺体はうつ伏せになり、頭を横に向けた状態で見つかりました。片手を上げていることから、川に転落したか、または何者かに突き落とされて死亡したようです。
ビクトリア時代に造られた下水道システムの老朽化にともない、ロンドンでは「テムズ・タイドウェル・トンネル」の建設が進められています。この遺体が見つかったのも、この建設現場で下水汚染を止める工事を行なっていた時でした。
興味深いことは、身につけていた衣服がとっくの昔に腐食していたのに対し、男性が履いていた膝丈の革のブーツが驚くほど良い保存状態で見つかったこと。川底に溜まった泥が、上手い具合に遺骨とブーツを守ってくれたようです。
発見されたブーツは、蝋引きの麻紐で革のハギレを縫い合わせて作られた風変わりなもの。踵が低く、一枚の平らな靴底の前後に植物性の材質で作られた補強が施されているというデザインから、15世紀後半から16世紀初頭にかけて作られたたものと考えられます。靴や足首までの長さのブーツが普通ですが、膝丈のブーツはこの時代には大変珍しいものです。当時、革は大変高価なもので、繰り返し再利用されることがほとんどだったため、それほど高価な物を身につけたままで男性が埋葬されたとは考えにくいことからも、やはり自己や他殺で死亡した可能性が高いようです。
トンネル建設に携わった考古学チームは、ブーツが膝に届くほどの長さを持つことから、これが防水用の長靴で、男性が沖仲仕や漁師として川の周辺で働いていたことを示していると推測しています。実際、このブーツは、金属のバックルなどの装飾は一切無く、おしゃれというよりも実用的・日常的なものです。靴底に施されていた補強用の裏地の材質はいまだ解明中ですが、冷たい水の中を歩く際に足を冷やさないよう苔で作られた防寒用の裏地のようです。
男性がどんな人物だったかを私たちに教えてくれるのは、彼が履いていたブーツだけではありません。背骨と左の股関節に残った極度の変形性関節症の跡は、男性が肉体労働に従事し、日々身体の痛みに苦しんでいたことを物語っています。骨学者のニアフ・カーティ氏は、男性は亡くなった時、少なくとも35歳を超えていたと予測しています。さらに、男性の歯が独特の抜け方をしていることから、漁師が行うようなロープを歯の間に挟んで引っ張るという動作を彼が日常的に行なっていたことが伺えるそうです。身につけていた物や骨や歯の状態から、個人的な情報がここまで推測できるとは驚きですね。
今回の発見からは、当時のロンドン市民の日常の暮らしぶりさえも想像することができます。テムズ川で働く男たちの威勢の良い掛け声や、通りを行き交う人々の喧騒までもが聞こえてきそうです。亡くなった男性の死亡原因は断定できませんが、時を越えてご冥福をお祈りします。
via: the guardian, daily mail/ translated & text by まりえってぃ