ラクターゼ活性持続の拡大
動物の乳を飲むことが奇妙な理由は、生物学的に説明することができます。牛乳に含まれる糖の一種「ラクトース」は、果物やその他の食物に含まれる糖とは異なります。赤ちゃんの体内では、母乳に含まれるラクトースを消化するための特別な酵素「ラクターゼ」が作られます。
多くの人では、乳離れとともにラクターゼの分泌が止まります。ラクターゼが無ければラクトースは上手く消化できないため、牛乳を飲みすぎると、お腹にガスが溜まったり、お腹を下したりといった不具合が生じるのです。人類で最初に動物の乳を飲む習慣を持つようになったヨーロッパの人々は、たくさんおならをしたかもしれませんね。

ですが、そこに進化の力が加わりました。人々の中に、大人になってもラクターゼを保ち続けることができる者が現れ始めたのです。この「ラクターゼ活性持続」の特性を持つことで、副作用を起こすこと無くミルクを飲めるようになりました。この特性は、ラクターゼ遺伝子の活動を制御するDNAの部位が突然変異により生じた変化でした。
ラクターゼ活性維持の特性は、人々の間で徐々に広がりを見せ、今日では地域によってはごく一般的な特性になりました。北ヨーロッパでは9割以上の人々がこの特性を持ち、アフリカや中東でも一部の人にはこの特性が見られます。一方で、アジアや南米など、この特性がいまだに珍しい地域もあります。