受験にも役立つ暗記術
長年行われている記憶研究では、試験勉強をする場合、短いセッションで繰り返し何度も学習するよりも、期間を空けて異なる時間にもう一度学習する方が高い効果が得られることが確認されています。
この理由を、今回の研究と競合する別の研究では、海馬に蓄積された記憶が長期の記憶として脳に定着するためには時間経過が必要であり、時間とともに脳領域へ記憶が移行され強化されるという原理を説明しています。そのため、この研究では勉強は立て続けに詰め込みで行うのではなく、一定の休息を挟みながら行う必要性を唱えています。
しかし文脈的結合理論は、こうした効果の利点についても気分や感情と記憶が結びつくメカニズムで説明できると言います。
短時間で繰り返される学習は、単一の文脈としか関連づきませんが、異なる時間や環境で学習された内容は、複数の文脈と関連づくことになります。
試験会場で、必死に積分公式や英単語を思い出そうとしたときにこれが有利に働きます。試験会場で湧き上がる精神状態は、ひょっとしたら過去に勉強したときのいずれかの文脈と一致する可能性が高くなるからです。
常に家の落ち着いた環境で勉強していた場合、試験会場では一向に記憶が呼び出せないということもありえるのです。人の多い図書館や、慌ただしい通勤電車の中で学習した内容のほうが、落ち着かない試験会場では思い出しやすくなるかもしれません。
これは何も試験勉強に限った話ではありません。企業面接、プレゼンなど、大勢に見られる状況では、1人の落ち着いた環境で練習した内容は容易に思い出せなくなる可能性を示唆しています。
なるべく実戦に近い環境で練習したほうが良い、とか緊張すると記憶が上手く出てこなくなるというのは経験的によく言われることですが、その裏には文脈的結合理論という科学的な根拠があったのです。
これから何かを学習したり、覚えようとしている人は、この理論が提唱するメカニズムを意識してみると良い効果が得られるかもしれません。