- 今までの抗ウイルス剤はウイルス増殖をおさえるだけで殺せなかった
- ウイルスのタンパク質を物理的な力で崩壊させる、砂糖ベースの殺ウイルス剤が開発された
ウイルスは殻となるタンパク質と内部の核酸のみという、極めて単純な構造をしています。
しかしその単純な構造ゆえ、殺すことは困難でした。タンパク質と核酸は私たちの細胞の主な構成要素であり、どちらかでも破壊しようとすと、人体に副作用が出てしまうからです。
そのため、これまでの抗ウイルス薬はウイルスを殺せず、増殖を抑えることしかできませんでした。
しかし今回、スイスと英国の研究者たちによって、糖をベースにした、人体に毒性を与えずに「ウイルスを殺せる」抗ウイルス剤が開発されました。
研究内容はスイスのローザンヌ連邦工科大学(EPFL)のSamuel T. Jones氏らによって学術雑誌「Science Advances」に報告されました。
ウイルスのタンパク質を引き裂く分子を設計する
研究者たちは殺ウイルス剤を設計するに当たり、ベースとなる骨格を選定しました。
選ばれた骨格は天然のグルコース誘導体です。
グルコース誘導体は強固な環状構造を持ちながらも、人体に安全であり、すでに食品や化粧品に使われています。
研究者たちはここに、長いアルキル鎖をつなぎ、その先端にスルホン酸基を結合させました。
スルホン酸基は強酸性と強い電子求引性を持ち、ウイルスのタンパク質を破壊することができるとされます。
いわば、強靭な土台(グルコース)に長い棒(アルキル鎖)をつけ、先端に鋭い刃物(スルホン酸基)をつけたといったところです。
研究者たちはこの3タイプの分子(CD1、CD2、CD3)を設計し、それぞれの殺ウイルス能力を確かめました。