- 蝶の翅における可視光の吸収率は、最も黒い物質として知られる「ベンタブラック」に匹敵することが判明
- 翅表面のナノ構造により、99.94%という非常に高い吸収率を実現していた
アメリカ・デューク大学の研究により、黒蝶の翅には、可視光の99.94%を吸収するナノ構造が隠されていることが判明しました。
この吸収率は、既知の最も黒い物質のひとつとして知られる「ベンタブラック」の99.96%に匹敵します。
現在では、吸収率99.995%を誇るカーボンナノチューブも人工的に開発されていますが、自然界では、蝶の翅に勝る黒さはありません。
また、調査の結果、高い吸収率を可能にする蝶の翅表面のナノ構造も明らかにされています。
研究は、3月10日付けで「Nature Communications」に掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41467-020-15033-1
蝶の翅のメカニズム
研究チームは、世界中から10種類の黒蝶を集め、翅の暗度を調べました。黒蝶は、最も黒いものを「ultra-black」、通常の黒さのものを「regular black」、少し薄いものを「dark brown」と分けています。
結果、一般に暗度の高い物質として知られる木炭や黒色ビロードより、それぞれ10〜100倍も黒いことが分かりました。
その秘密を解明するため、電子顕微鏡で観察してみると、翅表面のナノ構造はスポンジ状や網目状をしており、2層構造のようになっていました。
上部は、等間隔に林立する尾根とその間の穴でできており、下部は、上部を支える柱状組織になっています。
前段階では、「蜂の巣状の穴が暗度に関わっているのではないか」と予想されましたが、むしろ尾根や支柱が重要であると判明しています。
最も黒いultra-blackの翅をregular blackと比較したところ、尾根が非常に急峻で、下部の柱状組織もより深く、太いものになっていました。
そして、コンピューターモデルを用いて、尾根や柱状組織のない場合をシミュレーションした結果、もとの状態より可視光を16倍も反射し始めたのです。
これは、ultra-blackの翅がdark brownまで明度を増すのに相当します。
研究主任のアレックス・デイビス氏は「こうしたナノ構造の変化が、光の吸収率を増加させるならば、蝶の翅は人工的につくられるナノチューブなどと同じ設計原理をしているでしょう」と話します。
つまり、蝶の翅のメカニズムを今後の開発に応用できるということです。
しかも、蝶の翅は人工の積層型カーボンナノチューブよりも数倍薄いため、その仕組みが解明されれば、重さを増やすことなく高い吸収率を維持する物質がつくれるかもしれません。
こうした研究は、高性能のソーラーパネルや望遠鏡、航空機のカモフラージュへの利用が期待されています。