- 地球深く、マントルから来る岩石には重い鉄の同位体が多く含まれている
- 新たな研究は、それがコアから鉄が漏れているというモデルを作成して説明している
空を自由に飛び、マリアナ海溝を1万メートルも潜り、月にさえ行った人類でさえ、未だ見ることも行くこともできない場所が地球にあります。
それは地中です。
掘ればいいじゃない、と単純に思うかもしれませんが、現在人類が掘った最深記録は、1989年にソビエト連邦が行ったコラ半島超深度掘削坑というボーリング調査の掘削で、その距離は約12.3kmです。
その後、ボーリング杭による掘削はいくらか距離を更新していますが、100m未満の延長でしかありません。
つまり、人類が掘り進められる限界は今の所、だいたい12.3kmなのです。
しかし、地球中心部のコアは6000kmの地下にあり、その外層にあるマントルでさえ3000kmも潜らなければなりません。
溶岩ってマントルなんじゃないの? と思っている人もいるかも知れませんが、溶岩のほとんどはせいぜい200km程度の地下で解けた岩石類で、地中深くにあるマントルとは別物です。
それでも科学者たちは、地球の内部がどうなっているのか知りたいと論理モデルを組み立てて、その様子を推測しています。
そして最新の研究によると、地球中心のコアでは、溶融した鉄がマントルに漏れ出ている可能性があるのだといいます。
私たちの惑星内部で、鉄はどのように振る舞っているのでしょうか?
コアから鉄が漏れ出す
あまり意識されることの無い事実ですが、溶岩などのサンプルを除けば、人類が直接掘って手にできる地球のサンプルはせいぜい12.3kmまでしかありません。
ほんとに表層の部分だけしか、直接はわからないのです。
そのため、地球の内部に関する知識は、様々な情報から推測して得たものです。
地球の質量は地球が及ぼす重力の影響を調べることで知ることが出来ます。その重さは「5.972 × 1024 kg」だと言われています。
こうした質量や、宇宙で主要な重い元素、地球に強力な磁場が存在することなどを考慮すると、地球のコアはおよそ80%以上が鉄で構成されていると考えられるのです。
さらに、科学者は地震で発生した振動が、地中をどう伝わっていくかを地球上のあちこちで調べることで、地球の内部構造を推測しています。
そして、地表近くまで運ばれたマントルのサンプルから、マントルには鉄の塊がかなり多く含まれることもわかっています。
このことから、ひょっとしてマントルの鉄はコアから来たものなんじゃないかと考える人達がいました。
「コアとマントルの間で物質の行き来があるのか?」という問題は、何十年も科学者の間で議論されている謎です。
今回の研究者たちは、それが可能かどうかという問題を検討するため、鉄の同位体が高温高圧下でどの様に動くかという実験を元に、地球内部の新しいモデルを作成しました。
それによると、重い鉄の同位体は地球の高温のコアから、それより温度の低いマントルへ移動するということが示唆されました。
逆に軽い鉄の同位体は、温度の低い方から熱い方へ移動することがわかり、マントルからコアへ戻っていく可能性が示されたのです。
マントルとコアの間で物質の行き来がある、という事実が長期的にどういう影響を地球に及ぼしているかは、まだ明らかになっていません。
しかし、マントルには上昇流となるマントルプルームというものがあり、そこからコアの物質が地球の上部へ上昇しています。マントルプルームは、大陸を移動させている原因にもなっている地球の大規模な活動の1つです。
他の研究では、タングステンもまた25億年くらいかけてコアから漏れ出し、マントルプルームに乗って地表近くに運ばれているという可能性が示されています。
こうした事実から新しいシミュレーションは、サモアやハワイなどの海洋で噴火した溶岩の中には、重い鉄の同位体が豊富に含まれている原因が、コアの鉄漏出である可能性を示しています。
地表で見つかる鉱石の種類や量がなぜそうなるのか、こうした研究から説明がつけられるようになるかもしれません。
近いようで遠い地球の内部。科学者たちは、内科の先生のように外側から得られる情報だけを使って、内部の様子を少しずつ推察して明らかにしているのです。
この研究はデンマークのオーフス大学の地質学者Charles Lesher氏を筆頭とした研究チームより発表され、4月6日付けで、地球科学の査読付き学術雑誌『Nature Geoscience』に掲載されました。