「ムネミオプシス・レイディ」というクシクラゲ類の海洋生物を知っていますか。
南北アメリカの大西洋沿岸を原産地としますが、ここ数十年でバルト海まで生息地を拡大しています。バルト海では外来種として危険視されており、数を増やすことで生態系にダメージを与えているのです。
一方で研究者たちは、ムネミオプシス・レイディがバルト海の冬を耐えて、繁殖することに疑問を抱いていました。栄養源が不足する冬の期間を外来種が乗り切るのは非常に困難なことです。
ところが今回、南デンマーク大学およびマックス・プランク研究所により、ついにその謎が解明されました。
なんとムネミオプシス・レイディは、自らの子どもを食べることで越冬を可能にしていたのです。
「カニバリズム」が植民地化を成功させていた
ムネミオプシス・レイディについて、これまで謎に包まれていた行動があります。
夏の終わりになると、なぜか大量繁殖することです。これから栄養源が不足するというのに、子どもを産むことは理にかなっていません。
食べ物がないのに、どうして子どもを養うことができるでしょうか。
ところが、研究チームが、摂食行動や個体群動態を調べたところ、恐るべき事実が発覚しました。ムネミオプシス・レイディの成体は、冬をしのぐ食料として、子どもを産んでいたのです。
非情にも思えますが、ムネミオプシス・レイディが植民地の冬を乗り切るには必要な行動でした。
調査によると、夏の終わりに大量の子孫を摂食することで、約2〜3週間分の栄養素が確保できます。それが結果として、冬時期に何も食べなくても80日間生き延びることを可能にしていたのです。
研究チームのトム・ラーセン氏は「ムネミオプシス・レイディの群れは、ある意味で、一つのコロニーとして機能しています。栄養源が不足する時期は、若いグループが成体の栄養源として役立てられます。つまり、カニバリズムが植民地化の成功に寄与しているのです」と説明します。
カニバリズムは、これまで1500種を超える生物に確認されています。基本的には、食糧不足や自然災害に直面した際に取る最終手段でありますが、通常の状況下で行う生物も多く存在します。
そして、ムネミオプシス・レイディは、現生生物の始まりでもある約5億4200万年前のカンブリア紀に起源を持っています。
つまり、カニバリズムは全生物に根源的な行動特性なのかもしれません。
研究の詳細は、5月7日付けで「Communications Biology」に掲載されています。