銀河中心の大爆発
天の川銀河中心で起きた爆発は、大質量ブラックホール「いて座A*」の近くで渦巻く降着円盤に、太陽質量の10万倍にも及ぶ水素雲が落下したために起こったと考えられています。
その結果、「いて座A*」は銀河平面の上下方向に宇宙空間の奥深くまで届く、強烈な紫外線の閃光を円錐状に放射しました。
これは、銀河平面の上下方向に大きく広がるフェルミバブルを生み出す原因にもなった現象と考えられています。
フェルミバブルは約5万光年に及んで、放射線により電離されたガスの痕跡ですが、それは20万光年離れたマゼラニックストリームにまで及んでいたのです。
天の川銀河の南極方向から吹き出した放射線は、円錐状に広がってマゼラニックストリームを構成する水素ガスを電離させました。これは太陽を1億個作り出せるほどの大量の水素でした。
なぜ、そんなことがわかるのかというと、それは電離の確認できた領域にあります。
クエーサーの光を通した確認されたマゼラニックストリームの電離は、ちょうど天の川銀河の南極方向から放射状に広がった領域でした。
マゼラニックストリームには、マゼラン星雲を先導するように伸びるリーディングアームという領域もありますが、天の川銀河の南極方向から外れたこの領域には、電離の痕跡は見つかっていません。
このことから、マゼラニックストリームを電離させたのが、天の川銀河の放射だったと推測できるのです。
紫外線のスペクトルは情報が豊富ですが、地上までは届きません。こうした観測は軌道上に浮かぶハッブル宇宙望遠鏡の紫外線観測だからこそ成し遂げられた成果です。
これはまるでクリスマスツリーのようにマゼラニックストリームを光らせただろうと、研究者の1人宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)のアンドリュー・フォックス氏は語っています。
さらにこの現象は、最大100万年近く継続した可能性があるといいます。
これは地球から肉眼で見ても、ぼんやりとした幽霊のような輝きを放っていて、それはアフリカの平原をさまよっていた人類の祖先も目撃していた可能性があります。
はるかな昔、今とは異なる夜空が広がっていたと思うと、とてもロマンをかき立てられます。
この研究は、宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)の研究者Andrew J. Fox氏を筆頭としたハッブル宇宙望遠鏡の国際研究チームより発表され、6月2日付けでNASAのプレスリリースで発表されました。
論文は、天文学に関する学術雑誌『Astrophysical Journal』に掲載予定で、第236回米国天文学会でも発表予定です。また、論文全文はプレプリントサーバーで閲覧できます。
https://arxiv.org/abs/2005.05720