プラネット・ナインは発見できるのか?
もし「プラネット・ナイン」が地球質量の10倍程度の原始ブラックホールだった場合、その大きさはボーリング程度になってしまいます。
こうなると、光学的な放射を見つけることは難しく、赤外線探査や一般的なブラックホールの検出に使われるガンマ線観測でも検出することは非常に難しいと考えられます。
しかし、今回ハーバード大学の研究チームが発表した方法なら、ブラックホールのプラネット・ナインを検出することが可能だというのです。
そのために利用されるのが、チリのパチョン山に建設が予定されている大型シノプティック・サーベイ望遠鏡 (Large Synoptic Survey Telescope: LSST) です。
LSSTは非常に広い視野をもって、空の広域を調査することが可能な望遠鏡です。
通常の望遠鏡は天体を発見するために、特定の見るべき領域を指定しなければなりません。しかし、LSSTを使えばわずか3晩で空の全域を調査することができるのです。
論文の筆頭著者であるハーバード大学生のAmir Sirajによれば、ボーリング玉サイズのプラネット・ナインでも、太陽系外縁にあるオールトの雲からやってくる彗星の出す塵やガスによって降着フレアを起こす、とされています。
これは非常にかすかなもので、具体的にどこに存在するかも明確でない天体の降着フレアを発見するのは至難の業ですが、LSSTなら可能になるだろうといいます。
「週に2回も空の全域を調査可能なLSSTの機能は非常に価値があります。どこにあるか正確にわからない小さな天体の僅かな光であっても、この能力があればカバーできます」
一般的に巨大なブラックホールの降着フレアは稀にしか発生しません。しかし、非常に小さなブラックホールが存在する場合、その降着フレアはもっと頻繁に発生するだろうと予想されています。
1年間に複数の降着フレアが観測できれば、その位置の変化を追うことで、プラネット・ナインの軌道も特定できます。
「プラネット・ナイン」が原始ブラックホールなのかは、まだ明らかではありません。しかし本当に、こんな身近に地球の数倍程度の原始ブラックホールが存在しているとしたら、それは世紀の大発見となります。
遠いとはいえ、太陽系外縁は決して到達不可能な距離ではないため、このとき初めて、人類は間近でブラックホールを観測する機会を得るのかもしれません。
研究は、この観測を実行すれば、1年以内にプラネット・ナインの検出、もしくはブラックホールという可能性の除外ができるとしています。
思いの外早い成果に期待が高まります。
なお、観測の肝となるLSSTは2020年稼働予定ですが、現在は建設中の状況です。また、LSSTはアメリカ天文学会の2020年冬季年会で、正式名称がヴェラ・ルービン天文台(Vera C. Rubin Observatory:VRO) と決定されました。
ヴェラ・ルービンは、暗黒物質の存在を観測により示した女性天文学者の名前で、天文台の名称は彼女の名にちなんでいます。
今後は、この望遠鏡の名前が出るときは、VROと呼ばれているかもしれません。
この研究は、ハーバード大学の研究チームより発表され、論文は『The Astrophysical Journal Letters』への掲載が予定されています。現在はプレプリントサーバーarXiv上で閲覧可能です。
https://arxiv.org/abs/2005.12280
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