エネルギー節約説の実験的証明は困難だった
魚が群れる理由として、絵本『スイミー』でもお馴染みの「捕食者に対する防御」と共に「エネルギー節約説」が、常に語られてきました。
エネルギー節約説とは、群れの内部にいる魚は前を行く魚のお陰で水の抵抗が少なくなり、同じ移動距離でも必要なエネルギーを節約できるとする説です。
マラソンにおいて古くから知られている「前の人の後ろにぴったり張り付く」と空気抵抗が少なくなって有利になる…とする戦術の水中版とも言えるでしょう。
しかしながら、現在に至るまで、そのエネルギー節約説を実験的に証明した研究はほぼありませんでした。
先行する既存の研究は、どれもシミュレーションや紙面での演算ばかりだったのです。
その主な原因は、測定方法の難しさでした。
水中を移動する魚の消費カロリーを計算するには、本物ソックリの魚の動きを再現する装置を作って仕事量を求めるだけでなく、後続する魚に与える力学的な影響を調べなければなりません。
つまり非常に精巧な魚ロボットと水の動きの可視化…この2つが現実世界でそろうことが絶対条件だったのです。
この2つはシミュレーション世界ならば簡単に実現できる条件ですが、現実では非常に困難でした。