脳と体の間の延髄に抑制装置が存在した
「意識・夢・体」の関係を調べるにあたって、研究者が着目したのは延髄でした。
延髄は夢と意識の本拠地である脳と、現実の体の動きにかかわる運動ニューロンの中間地点にあり、物理的な連結地点の候補としては最適だったからです。
調べるにあたっては、神経のつながりを遮断する効果がある、破傷風毒素が用いられました。
延髄にある様々な区画に対して破傷風毒素を添加し、眠ったマウスの体の動きを観測することで、夢と体の動きに変化があらわれるかを確かめたのです。
結果、延髄腹内側(VMM)にある神経伝達を破壊すると、マウスはレム睡眠時(夢をみているとき)に手足をバタつかせる、レム睡眠行動障害のような症状を起こしました。
この事実は、延髄にある神経回路(VMM)が、夢の世界にいる意識から発せられる行動命令に対して抑制信号を出し、現実世界の手足や顔、舌などの動きを封じていたことを示します(抑制を破壊すると手足が動いたから)。
自然なVR世界である夢を安全に体験するために、動物の体には既に抑制装置が組み込まれていたようです。
一方、興味深いことに、目の筋肉と内臓の筋肉は延髄の回路(VMM)の抑制を受けていませんでした。
これら事実は同じく睡眠障害に分類される「金縛り」との違いを想起させます。
金縛りは意識が一部目覚めている一方で体が動かず、レム睡眠時行動障害は意識が完全に夢の中にあるにもかかわらず、体が動くからです。
さらに今回の研究では、この抑制回路が、レム睡眠全体を制御する脳の区画(下背外側被蓋核:SLD)及び、様々な運動ニューロンと接続されていることが発見されました。
つまり夢世界での動きの封じ込めは「脳(SLD)によるレム睡眠の制御→延髄(VMM)による行動抑制信号の発信→運動ニューロンの抑え込み」という形をとっていたのです。
ですが今回の研究でわかったのは、神経回路のつながりだけではありません。
行動抑制システムは、突発的に眠ってしまうナルコレプシーという難病において特に興味深い、体だけが眠ってしまう症状に関係していたからです。