結晶ができる瞬間はどうなっているのか?
人類は紀元前の昔から製塩などで、結晶化を技術として利用してきました。
現代では、製薬や材料の分野でも結晶化技術は活躍しています。
しかし、結晶化のメカニズムは必ずしも十分理解されているとは言えませんでした。なぜなら、分子が無秩序な液体から秩序を持った結晶へと変化するその過程を、人間は直接見られなかったからです。
現代はさまざまな技術の発展により、原子レベルの小さな世界を観察することができるようになっています。結晶中の原子配列など静的な構造も明らかにされてきました。
けれど、結晶化という動的な過程の一部始終を原子レベルで観察することは、まだ達成されていなかったのです。
それを今回、東京大学の中村栄一特別教授と、産業技術総合研究所の灘浩樹氏による共同研究グループは、「原子分解能単分子実時間電子顕微鏡(SMART-EM)イメージング法」という技術を開発し、スローモーション撮影することに成功しました。
研究では、塩化ナトリウム(NaCl)水溶液を、円錐状のカーボンナノチューブ(CNT)の中に入れ、それを乾燥させていくことで内部の塩が真空中で結晶化していく様子を撮影しました。
円錐という先の尖った形状は、先端部分でNaCl分子の集合・核形成を誘起させ、分子拡散をうまく抑制してくれます。
これにより、撮影された動画はカーボンナノチューブの先端で1ナノメートル(10億分の1メート)の塩の結晶が繰り返し形成される様子を捉えたのです。