滑りやすさは凍ったままの分子たちの振動幅が決めていた
新しい研究では、研究者たちは上にあげた装置を用いて、温度・圧力・速度などの条件を変えながらさまざまなタイプの滑りを測定しました。
すると、温度をマイナス100℃まで下げた時に、急に滑りが悪くなりアイススケートが不可能になることがわかりました。
研究者たちが氷の表面分子を調べたところ、やはり「水の層」は存在しなかった一方で、表面の氷分子の振動幅(可動性)が滑りやすさと大きく関係していることが示されました。
装置による実験、およびシミュレーションの双方で検証した結果、氷が冷えて表面の分子振動が小さくなるにつれて、摩擦抵抗が増加していることが判明したのです。
この結果は、氷の滑りやすさを決めているのは、表面にある「水分子の可動性」であることを示します。
しかし氷の滑りやすさを決めているのは表面分子の振動だけではありませんでした。
表面が凸凹な氷(または凸凹のスケート刃)を用いた実験データでは、局所的な接触圧力の増加が滑りを悪くしていることが示されました。
この結果は、経験的な事実と一致します。
加えて今回の研究では、氷の温度も重要であることが示されました。
氷の温度が上がるにつれて表面の氷分子の可動性が増して滑りやすくなっていきます。
しかし、可動性の増加は同時に耐久性の減少につながり、スケート刃が氷の表面に食い込んで、物理的な抵抗が生じてしまうのです。
そこで重要になってくるのが、速度でした。
スケート刃の速度が速い場合、スケート刃が氷に食い込む率を下げることができるからです。
以上の結果は、氷の滑りやすさは「温度」「圧力」「速度」の相互作用が決めていることを示します。
古くから言われてきた表面の「水の層」の存在は、氷の滑りやすさを決める初期要因ではなく、後から考慮すべき追加条件であると言えるでしょう。