昆虫の量のちがいで「魚社会」が激変!
透きとおった渓流にすむ川魚は、周りの森から落ちてくる昆虫を好んで食べます。
森の昆虫がエサとして手に入るときは、もとから川にいる水生昆虫やヨコエビなどの底生動物をあまり食べようとしません。
すると、底生動物の数が減らず、彼らがエサにする川底の落ち葉のなくなるスピード(破砕速度)が逆に早まるのです。
このように、川の生態系や食ネットワークは、森から降る昆虫の量に大きく左右されます。
その量は、春先に木々が生える頃に増加し、初夏にピークをむかえ、秋が深まる(落葉する)につれ減少します。
一方で、高緯度や高標高の森では木々の芽生え〜落葉までの期間が短く、反対に、低緯度や低標高の森では長くなることが知られています。
つまり、昆虫の降下量は、前者の森で「集中型」に、後者の森で「持続型」になると予想されるでしょう。
研究チームはこれをもとに、昆虫の供給期間が川に与える影響の違いを調べました。
まず、対象となる川の生態系を模した大型プールを用意し、そこに川魚のアマゴを入れます。
調査期間は90日とし、その間の30日間に集中して昆虫を供給する「集中区」、90日にわたり持続的に供給する「持続区」、昆虫を供給しない「対照区」に分けて、3つのプールを用意。
実験は2016年8月〜11月にかけて行われ、90日間で与えられる昆虫の量はすべて同じにされています。
その結果、集中区では、エサ供給の期間が集中しているため、大型の魚がそれを独占する社会構造が作られず、小型個体も昆虫を食べていました。
すると、実験後の魚のサイズ差は小さくなっており、ひとり勝ちが起きない魚社会となっています。
対する持続区では、エサが長期的にゆっくりと供給されるため、大型の魚により独占される構造が作られ、小型個体はあまり食べられませんでした。
実験後の魚のサイズ差も大きくなり、ひとり勝ちしやすい魚社会が形成されています。
ひとり勝ちした魚の中には繁殖可能なサイズに達するものも見られ、個体数増加への影響も示唆されました。
また集中区では、どの魚も昆虫にありつけるので、底生動物の数の減少はあまり見られていません。
反対に持続区では、昆虫を食べられない小型の魚たちが、代わりに底生動物を食べ、数を減らしていました。
集中区では、底生動物が安定しているので、彼らがエサにする落ち葉の破砕速度も早くなっています。
持続区では、底生動物が減った分、破砕速度も集中区にくらべて落ちていました。
つまり、川の生態系は、昆虫の供給パターンの違いで大きく変化するのです。
昆虫の供給パターンは、地球規模の気候変動により変動する可能性が指摘されています。
研究チームは今後、それが川の生態系に与える影響を理解するため、日本全国の森と川を調査する予定です。