女王アリを他人の巣間に「放り込み」現地のオスと交尾させ奇妙な習性を確認!
女王アリを他人の巣間に「放り込み」現地のオスと交尾させ奇妙な習性を確認! / Credit:Canva,ナゾロジー編集部
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女王アリを巣穴に「放り込み」見知らぬオスと交尾させる奇妙な習性を確認!

2021.05.20 Thursday

若い女王には受難が待っていたようです。

5月3日に『Communications Biology』に掲載された論文によれば、「Cardiocondyla elegans(カルジオコンジルア・エレガンス)」と呼ばれるアリは、巣の中で婚期を迎えた若い女王を、働きアリが背負って別の巣穴に放り込む習性があるとのこと。

放り込まれた女王はその巣のオスと乱交に及んだ後に、さらに当地の働きアリによってまた別の巣穴に放り込まれ、そこでも再び乱交を繰り返すようです。

運ばれている女王は翅がはえており手足もしっかりしていながら、自分からは動こうとはせず、移動は一貫して働きアリに頼っていました。

しかし、いったいどうしてこんな異様な交配システムが構築されることになったのでしょうか?

At Mating Time, These Ants Carry Their Young Queen to a Neighbor’s Nest https://www.nytimes.com/2021/05/13/science/ants-queens-inbreeding.html?referringSource=articleShare
Worker ants promote outbreeding by transporting young queens to alien nests https://www.nature.com/articles/s42003-021-02016-1

女王アリを他人の巣間に「放り込み」現地のオスと交尾させ奇妙な習性を確認!

女王は翅もあり飛べるはずなのに輸送は働きアリにまかせている
女王は翅もあり飛べるはずなのに輸送は働きアリにまかせている / Credit:Canva,ナゾロジー編集部

地中海地域が原産のアリ(Cardiocondyla elegans)には奇妙な性質が知られていました。

翅のはえた若い女王を、1匹~数匹の働きアリが背負うように輸送するというものです。

しかしこの奇妙な習性がどんな意味を持つかは、長い間、謎に包まれていました

働きアリが女王アリを輸送している様子
働きアリが女王アリを輸送している様子 / Credit:Mathilde Vidal et al (2021) . Communications Biology

そこで今回、ドイツのレーゲンスブルク大学の研究者たちは、複数のアリのコロニー(175カ所)をマッピングし、何が起きているかを詳細に確かめることにしました。

結果、合計で453回の輸送イベントを確認し、そのうち141回では輸送の開始と終了の地点を割り出すことに成功しました。

放り込まれた先の巣穴で女王はオスと交尾する
放り込まれた先の巣穴で女王はオスと交尾する / Credit:Canva,ナゾロジー編集部

また巣穴に放り込まれた後の女王たちの行方を、巣を掘り返して調べたところ、表層付近のオス(若い王)たちが待機している「交尾室」と呼ばれる場所に移動しており、そこで複数のオスと交尾をしていることが確認されました

しかしより興味深い事実は、この輸送イベントが1回で終わらなかったことにあります。

研究者たちが女王が産んだ子アリの遺伝子を調べたところ、子アリの父親が複数の家系(別の巣穴のオス)に由来していることがわかったからです。

この結果は、運び込まれた女王はオスと交尾した後に、現地の働きアリによって再び別の巣穴に放り込まれ、そこでも交尾を繰り返していたことを示します。

輸送は1度ではなく複数回、巣穴をたらい回しにするように行われる
輸送は1度ではなく複数回、巣穴をたらい回しにするように行われる / Credit:Canva,ナゾロジー編集部

通常のアリが婚期になると雄雌ともに翅をはやして結婚飛行に飛び立つ一方で、この奇妙なアリたちは、婚期になった翅のはえた若い女王をたらい回しのように巣から巣へとわざわざ「輸送」し、現地のオス(若い王なのに翅がない)と交尾を行わせていたのです。

このような他者(働きアリ)の支援を伴う交配システムが確認されたのは、今回の例がはじめてです。

研究者たちはこの不思議なシステムを、アリたちが近親交配を確実に避ける手段として使用していると考えています。

しかしより興味深い点は、輸送されている女王アリよりも、輸送している働きアリにありました。

女王の輸送を行うアリは誰でも替えがきくような存在ではなく、特別な働きアリだったのです。

次ページ本当にすごいのは女王ではなく「輸送アリ」のほうだった

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