本当にすごいのは女王ではなく「輸送アリ」のほうだった
女王アリの巣間たらい回しの事実を確認した研究者たちは、次に女王を運ぶ働きアリ(輸送アリ)に興味をうつしました。
研究者たちはまず、輸送アリと普通の働きアリに違いがあるかどうかを確かめるため、輸送に従事している輸送アリを巣から除去しました。
すると興味深いことに、女王の輸送がパッタリと行われなくなったのです。
この結果は、輸送アリが巣の中で特別な存在であり、損失を簡単に埋められない存在であることを示します。
また輸送ルートを分析した結果、女王の輸送がほぼ直線距離で行われていたことが判明します。
さらに輸送は直近の巣穴というわけではなく、遺伝的に最も遠い家系を狙って行われていたことも判明します。
この結果は、輸送アリが何らかの方法で、女王の運び先を明確に決定・認識していたことを示します。
各巣穴の輸送アリたちは互いに協同するように女王のたらい回しを行うことで、種全体の遺伝的多様性を増していたのです。
このような一見すると知性的にみえる行動は、群知能と呼ばれています。
個々のアリたちは人間のように意思決定を行っているわけではありませんが、遺伝子に従って役割を果たすことで、結果として群れ全体の行動を、あたかも高度な知性に指導されたかのように最適化し、厳しい環境のなかでも生存能力を高めることができるのです。
現在世界各地で開発が進んでいる、群れで行動するドローンの多くが、こうしたアリの群知能を参考に作られています。