貝殻をヒントにした多層構造の新ガラス
貝殻の真珠層は、硬いチョークのような物質と、弾力性のある柔らかいタンパク質が層になって形成されています。
この構造が優れた強度を生み出していて、構成する物質が持つ強度を3000倍も引き上げているのです。
研究チームは、貝殻が持つ真珠層の構造を、ガラスフレークとアクリルの層で再現し、非常に強い素材を簡単で安価に製造することに成功しました。
ただ、この段階で作られた新ガラスは不透明な素材でした。下の画像で左側に置かれているのがその最初の素材です。
しかし、不透明なガラスでは使いみちが限られるため、チームはこの素材を透明にするために改良を行いました。
アクリルの屈折率を調整することで、ガラスとシームレスに混ざりあうようにし、新たに透明な複合材料となるようにしたのです。
それが画像で右側に置かれているガラスです。
これは作られたガラスと貝殻の真珠層の微細構造を示したものです。
自然が作る真珠層の構造の綺麗さにも驚きますが、この構造を真似ることで、硬さと同時に衝撃で壊れにくい柔軟性を持つガラスが作られたのです。
最初に紹介した古代ローマ時代には、実は非常に柔らかなガラスが存在したという伝説があります。
ペトロニウスの記録には、そのことが次のように語られています。
「ある職人がローマ皇帝ティベリウスに割れないガラスの杯を献上した。
試しに落としてみても、そのガラスの杯は割れることなく、凹んだだけだったので、職人はハンマーでその凹みを修繕した。
職人は製法を知るのは自分だけだと語ったため、皇帝はこのガラスの存在が金の価値を下げることを恐れ、この職人を処刑してしまった」
このことからフレキシブルガラス(柔軟なガラス)は、ローマ時代に失われた発明といわれています。
研究を発表したエーリッヒャー氏は、その逸話を引用して次のように話しています。
「ティベリウスの話を考えると、私たちの発明が、処刑ではなく論文発表へとつながったことを嬉しく思います」