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「科学を信じない人」がいる理由は科学者が気に食わないから

2025.12.21 21:00:28 Sunday

ワクチン、安全基準、気候変動など、私たちが直面した多くの社会問題において、世の中には学術的に信頼性の高い報告を信用せず、専門家以外の人が出す不正確な情報を当てにする人々が一定数存在してきました。

これまで世の中では、こうした問題に対して、情報に対する知識や合理的な判断力が不足した人は、科学者の出す情報を理解出来ないから信じないのだろうと考えてきました。

しかし、いくら知識が不足していたとしても、コロナパンデミックのような状況下において、一種の社会現象になるほど多くの人が、科学を信用せず、専門家や科学者のアドバイスと、逆の行動を取った理由は説明がつきません。

そこで米国ロチェスター大学(University of Rochester)の政治学者ジェームズ・ドラックマン(James Druckman)氏らの研究チームは、この問題の背景にあるのは、「知識不足」ではなく、「科学者という人たちが自分たちとあまりに違うため」信用できないだけなのではないかと考え、実際にそのような傾向が世の中に潜んでいるかどうかを大規模なデータを用いて検証しました。

社会心理学では、人は自分と似ていない集団を信頼しにくいことが示されています。当然のことながら科学者は一般の人たちと比較して、高学歴であり、所得水準も高い傾向があります。こうした一般と比べて偏った差が、科学者は自分たちとはまるで別の人間だという感覚を生み出し、その結果、科学自体に不信感を生む原因になっている可能性があるのです。

この研究の詳細は、2025年12月8日付けで科学雑誌『Nature Human Behaviour』に掲載されています。

Trust in science is low among minorities for a reason https://news.northeastern.edu/2025/12/09/science-representation-northeastern-survey/
Representation in science and trust in scientists in the USA https://doi.org/10.1038/s41562-025-02358-4

「科学」とは何を意味するのか?

調査を行うと、世の中には一定数の「科学を信じない」という人々が存在します。それがコロナパンデミックの状況下においては、大きな社会的混乱も起こしました。

ではこの「科学を信じない」という人たちはなんなのでしょうか?

この問題を考える前に、まず「科学」とは何か? という点をはっきりさせておきましょう。

科学とはあくまで可能性について論じる世界であり、真実を語ることが目的ではありません。みんなで見つかった事実を報告し合って、現状もっとも真実に近いと考えられる解釈を探すのが目的です。

科学の話をする人はよく「コンセンサス(合意)」という言葉を使いますが、これは多くのコンセンサスを得ている報告ほど、より真実に近いだろうということを意味しています。

そのため現在主流の考え方だけを信じる必要はないのですが、それ故に科学の世界に入れてもらうためには、すべての人が検証できるように自身のアイデアを報告する必要があります。

それは定量的なデータ(客観的な比較が可能な数値化されたデータ)と、どうやってそのデータを手に入れたかの明確な実験方法(他の人が同じ実験を再現するための条件)が示されていることです。

この要件を満たさずに、誰にも確認や検証が出来ない状態で、ただ勝手に新しい理論を展開しているものを疑似科学(似非科学)と呼びます。

たまに科学の世界でも間違った報告が放置されることがありますが、それは興味を持つ人が少なすぎて誰も検証していないからです。逆に言うと非常にホットな話題については、科学の世界でも活発に検証や議論が繰り返されるため、間違った理論ほど排除されやすい自浄作用を生みます。

以前、STAP細胞という研究で捏造したデータが報告されたことがありましたが、その報告はちゃんと比較可能な定量的データが示されており、実験方法もちゃんと示されていたので、「これは本当なのか?」と疑った複数の研究者が再現実験を行った結果、全然報告通りにならないということを示したので否定されました。

そのため「STAP細胞は疑似科学だ」という人がいますが、STAP細胞は間違いではあったものの、きちんと科学の手続きに則って否定されているので、これは科学と呼ぶことができます。このように科学は間違っていた場合、否定が可能であることが絶対の条件です。

きちんと科学のルールに従って報告をしていないので、誰にも否定も同意も出来ない状態のものが科学以外のもの、疑似科学となるのです。

なので、科学とは信じるとか信じないという性質のものではありません。専門的な知識を持った人たちがあらゆる可能性を疑って検証している世界そのものを指すので、そもそも「科学を信じない」という考え方自体があまり意味を成していません。

つまり「科学を信じない」という言葉の裏に潜むのは、「科学に関わっている人たちへの不信感」であり、知識や論理性の問題ではないと考えられるのです。

確かに社会心理学においては、人は自分と似ていない集団を信頼しにくいということが示されています。

そこで今回の研究チームは、こうした心理作用が実際に科学の不信と結びついているかを大きく3つのステップに分けて調査しました。すると非常に興味深い事実が見えてきたのです。

次ページ「科学者が嫌い」な人は生存率まで下がる

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