「クリスマスの苦しみ」を研究で解剖――『孤独の増幅』はなぜ起きる?
「クリスマスの苦しみ」を研究で解剖――『孤独の増幅』はなぜ起きる? / Credit:Canva
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「クリスマスの苦しみ」を研究で解剖――『孤独の増幅』はなぜ起きる?

2025.12.24 20:00:29 Wednesday

クリスマスの苦しみを科学します。

12月、イルミネーションは本来ただの電球なのに、なぜか「誰かと手をつないで歩くための舞台」に見えてしまう。

コンビニの棚に並ぶ小さなケーキですら、ふだんのデザートではなく「ふたりで分けるもの」に見える。

予約サイトを開けば「二名様から」の文字が静かに点滅し、SNSを開けば、同じ角度のツリー、同じようなプレゼント、同じような「幸せそうな二人」が流れてきます。

仕事や勉強はいつも通りに回っていて、普段はひとりでも平気なのに、この夜だけは胸の奥がざわつく。

誰かと比べたいわけではないのに、孤独は慣れているはずなのに、なぜクリスマスは苦しくなるのでしょうか?

今回はそんなクリスマスの苦しみに科学的観点からメスを入れていきたいと思います。

Affective Intensities of Single Lives: An Alternative Account of Temporal Aspects of Couple Normativity https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/00380385221090858 A Holiday Loved and Loathed: A Consumer Perspective of Valentine’s Day https://angelineclose.com/wp-content/uploads/2011/02/Loved-and-Loathed.pdf The Tenacity of the Couple-Norm https://uclpress.co.uk/book/the-tenacity-of-the-couple-norm/

クリスマスイブの残酷さ——「理想の相手は恋人」が8割

クリスマスイブの残酷さ——「理想の相手は恋人」が8割
クリスマスイブの残酷さ——「理想の相手は恋人」が8割 / Credit:Canva

数字はたまに残酷です。

恋愛マッチングサービス「Omiai」が2017年に利用ユーザー男女885人を対象に実施した調査では、「今年のクリスマスは誰と過ごしたいですか」という問いで、約8割が「恋人/好きな人」と答えたと報告されています。

ですが、ここで語られているのが「理想」に過ぎず「現実」ではありません。

日本の婚活企業IBJが2018年に20〜50歳の独身男女924人を対象に行った調査では、男性の約7割、女性の約4割が「一人」と回答しています。

現実は過酷です。

こんな数字を見ると「7-4=3ってことは、男性の3割は架空の恋人と過ごしているのでは?」という頭の悪い計算(ツッコミ待ち)すら、寂しく思えてきます。

(※実際は女性のほうが「恋人」をはじめ「家族」「友だち」「職場の仲間」と過ごす割合が高いというだけの話です。)

また同じIBJの調査では、クリスマスに抱く感情として「楽しい気持ち」39.4%、「幸せな気持ち」10.4%に対して、「寂しい気持ち」32%、「焦る気持ち」13.7%、「悲しい気持ち」4.4%と、明るい側と暗い側がほぼ半分に割れていました。

もちろん、こうした恋愛マッチングサービス会社による調査は母集団が偏っている可能性があり、全国民の平均と言い切ることはできません。

それでもこの数字は、クリスマスイブが「恋人がいて当然」「恋人と過ごして当然」という空気を、かなり強い圧で押し出していることを示唆する、ひとつの文化的サインとも言えるでしょう。

そしてこれがクリスマスの苦しみの正体を解き明かす大きなヒントになり得ます。

多くの人々はクリスマスの苦しみは「寂しさ」や「孤独」が原因だと思うかもしれませんが、それならば特に「クリスマス」に苦しみを感じるのは不思議にも見えます。

フィンランドを対象にした社会学の査読研究では、クリスマスは、独り身であることがとくに強く感じられる「感情のピーク」になりやすいことは認めていても、その背景には、単身状態がいつもより過剰に可視化される仕組みがあると述べています。

その研究が扱った社会では、クリスマスなどの祝日は「家族や大切な人と過ごす時間」として想定され、街も広告もSNSもその想定に合わせて動きます。

そのため祝日や休日は独り身であることがいつもよりも「過剰に可視化」されうると指摘しています。

この発想が鋭いのは、「独り身=常に寂しい」という雑な決めつけを否定してくれる点です。

論文中の証言例でも、金曜日の夜は最高でも、日曜の夜はつらい、というように、同じ人の中で感情が日付によって反転する。

その揺れは、個人の意志よりも、周囲の“前提”の切り替わりに引っ張られて起きます。

つまり、クリスマスが苦しいのは「一人だから」ではなく、「一人であることが、社会全体の照明で照らされるから」です。照明が強いほど、影も濃くなります。

次ページクリスマスぼっちの『公開処刑感』と社会学

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