毒インスリン分子を用いた「新型ハイブリッド」を開発
その後の研究で、同様の毒インスリンを持つイモガイは、先のアンボイナガイだけでなく、他に約150種もいることが分かっています。
このたびの最新研究では、キノシタイモガイ(Conus kinoshitai)という種のインスリン分子を用いて、ヒトインスリンとかけ合わせ、新たなハイブリッドインスリンを開発しました。
本種のインスリン分子は、アンボイナガイのそれとまったく違う構造をしていながら、速効性を持ち、クラスターも形成していませんでした。
今回のハイブリッドインスリン分子は、ヒトインスリン受容体に結合する機能を維持しつつ、クラスターも形成しないという目標が達成されています。
通常、ヒトインスリン受容体は、インスリン分子同士をつなぐ領域によって活性化されますが、ハイブリッド分子には、クラスター化を防ぐため、その領域が取り除かれて存在しません。
しかし、その領域がなくても、インスリン受容体を活性化できることが確認されています。
「この結果は、糖尿病患者のためのよりよい治療法を開発するエキサイティングな道を切り開いた」と、ユタ大学の生化学者であるクリストファー・ヒル(Christopher Hill)氏は話します。
自然の中で生物たちが様々な進化の果てに獲得した毒のカクテルが、ヒトが見落としていた重要な特性を獲得していたのは、非常に興味深い事実です。研究者はこの点を指摘してエキサイティングと表現しているのです。
ただし、ハイブリッドインスリンの実用化には、臨床試験や改良がまだまだ必要です。
それらの問題点を解決し、イモガイと同じ速効性を実現できれば、患者の血糖値をより良くコントロールできる新薬が誕生するでしょう。