焼き上がりまでの時間を最大で29%減!
ティフォー氏は、パテ(薄切り肉)の中を熱がどのように移動するのかについて、数学を用いてモデル化しました。
このモデルでは、パテの厚さを1センチとして、片側に発熱体(=グリルパン)があり、もう片側に新鮮な空気があると設定します。
パテは、200 ℃の発熱体と直接接触して熱を受け、空気に触れている側(25 ⁰C)から熱が逃げていきます。
また、パテは中心部の肉が70 ⁰Cに達した時点(ウェルダン)で、火が通った(調理完了)と見なされます。
そして、数値解析ソフトウェア「MATLAB」を使って、パテの中の熱伝導率を計算し、調理にかかる時間をシミュレーションしました。
その結果、1枚のパテを1度だけひっくり返した場合、中心部が70 ⁰Cに達するまでの時間は80秒でした。
しかし、パテを短い間隔で何度もひっくり返す場合、火の通りは早くなることが判明したのです。
たとえば、6〜11秒の感覚で10回ひっくり返すと、調理時間は69秒まで短くなりました。
シミュレーションでは、調理時間は最大で29%短縮できることが示されています。
これは、パテをひっくり返す回数が多いほど、両面が同時に加熱される状態に近くなるためと考えられます。
その一方で、調理時間の短縮効果には限界があることもわかりました。
ティフォー氏によると、ひっくり返しの頻度による時間短縮の効果には、ある閾値があり、それを超えてひっくり返しを続けても、効果は増大しなかったとのこと。
実際、シミュレーションでは、3〜4回ひっくり返すことで、最大限に近い短縮効果が得られており、それ以上ひっくり返して得られた効果は、無視できるほど小さかったようです。
つまり、「ハンバーグを早く焼き上げるのに最適なひっくり返しの回数」の答えは、「3〜4回」となります。
また、ティフォー氏の調査結果は、アメリカの料理研究家であるケンジ・ロペス・アルト(Kenji López-Alt)氏が、2019年に実演して得られた結果と一致するものです。
アルト氏は、パテの中心温度が52 ℃に達するまでの時間(これはレアを設定している)は、パテを15秒ごとにひっくり返すことで、1回ひっくり返す場合よりも、調理時間を3分の1近く短縮できたと述べています。
ただ、一般家庭において、1枚のハンバーグの焼き上がりを80秒から69秒に短縮できたところで、それほど大きなメリットはないでしょう。
大家族ならまだしも、一人暮らしや3〜4人家族なら、さして役に立つほどのテクニックでもないと思われます。
(もしかしたら、頻繁にひっくり返すことで、肉汁が逃げて、味が落ちるかもしれません。そこはぜひお試しを)
しかし、マクドナルドのように、1日に数百万個のハンバーガーを作るなら話は別です。
1枚のパテにつき、調理時間を3分の1も短くできれば、調理に使われるエネルギーコストの大幅な削減に繋がるでしょう。