二酸化炭素を貯蔵する「生きた建材」とは?
建築と環境保全の両立は、近年大きな関心を集めています。
特に、建築業界が世界のCO2排出の大きな割合を占める中、構造物自体がCO2を吸収・貯蔵できる素材の開発は、持続可能な社会への鍵といえるでしょう。
ETHZの研究チームは、この課題に対して「生きた建築材料」という斬新なアプローチを試みました。
その中核にあるのが、シアノバクテリア(藍藻)という微生物です。
これは地球上で最も古い光合成生物の一つで、水と光とCO2さえあれば、有機物(バイオマス)を生成できます。

研究チームは、シアノバクテリアの一種を特殊なハイドロゲルの中に封じ込めることで、光・水・CO2・栄養が内部に届きやすく、細菌が生きたまま活動できる人工素材を構築しました。
この素材は3Dプリンターで成形が可能で、硬化後もゲルの中で細菌は生存し、光合成を続けます。
内部構造は、光が通りやすいように設計されており、必要な栄養分が毛細管現象によって素材全体に行き渡るよう工夫されています。
研究の目的は、「二重の炭素固定」の実現です。
これは、シアノバクテリアが成長する過程でCO2を有機物(バイオマス)として取り込む可逆的な固定と、光合成により周囲の化学環境を変化させ、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムといった鉱物としてCO2を不可逆的に固定する、2つのメカニズムを指します。
これにより、短期的にも長期的にもCO2を封じ込めることができる、非常に効率の良い炭素吸収システムが実現されました。