「DART計画」の標的と狙いとは?
小惑星の衝突に用いる探査機「DART」は、日本時間2021年11月24日に、米カリフォルニア州・ヴァンデンバーグ宇宙軍基地からSpaceX社のファルコン9ロケットによって打ち上げられました。
今回のミッションでDARTが標的とするのは、地球から約1100万キロ離れた場所にある二重小惑星です。
この二重小惑星は、直径780メートルの小惑星「ディディモス(65803 Didymos)」と、その衛星である直径160メートルの「ディモルフォス(Dimorphos)」(あるいはディモーフォス)からなります。
このうち、DARTを衝突させるのは、後者のディモルフォスの方です。
ディディモスは、約2.1年周期で太陽のまわりを周回しており、それに付き従うディモルフォスは、約11時間55分でディディモスを公転しています。
ディモルフォスは、地球に接近して衝突する可能性のある「潜在的に危険な小惑星(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)」に分類されていますが、現時点でその軌道が地球軌道と交差することはなく、実際的な脅威とはなっていません。
DARTは、今回のミッションで、日本時間2022年9月27日午前8時14分にディモルフォスへと衝突する予定です。
しかし、その目的は、ディモルフォスをこっぱみじんにすることではありません。
DARTの機体は、約1.2×1.3×1.3メートルで、質量は570キロ。対するディモルフォスは、直径160メートル、重さ500万トンに達すると推定されています。
DARTの衝突によって研究チームが狙いとするのは、ディモルフォスの軌道変化です。
ミッションを主導するジョンズ・ホプキンス大学(JHU)応用物理学研究所のナンシー・シャボット(Nancy Chabot)氏は、次のように説明します。
「私たちが目指すのは、小惑星の破壊ではなく、軌道の変更です。
衝突によって、数十メートル規模のクレーターができ、約100万キログラムの岩石や塵が宇宙空間に投げ出されるでしょうが、それで小惑星が破壊されることはありません。
このミッションでは、ディモルフォスの約12時間周期の軌道を73秒縮めることができれば成功と見なされますが、実際の変化は、最大で10分に及ぶ可能性も想定されています」
破壊はできなくても、軌道を変えることさえできれば、地球に甚大は被害をもたらす衝突を回避できるのです。
ちなみに、DARTは秒速6.1キロのスピードで、ほぼ真正面からディモルフォスにぶつかります。
こちらは、DARTの打ち上げから衝突までのイメージをわかりやすくまとめた動画です。
また、DARTには、イタリア宇宙機関(ASI)の小型探査機「LICIACube」が搭載されており、これを事前に切り離して、ディモルフォスへの衝突の瞬間や、その後の様子を撮影します。
LICIACubeの分離は、衝突の10日ほど前を予定しているので、現在はすでにDARTから離れています。
LICIACubeは、衝突ポイントから約55キロ離れた場所で、一部始終を撮影し、その様子を地球に転送する予定です。
ただし、実際にディモルフォスの軌道が変わったかどうかを調べるには、数日から数週間を要するとのこと。
NASAの惑星防衛プログラムの科学者であるトム・スタトラー(Tom Statler)氏は、今月12日の声明で、「私たちのDART計画は、自然の天体の動きを変える人類初の試みであり、全世界にとって真に歴史的な瞬間となるでしょう」と述べました。
DART計画は、3億2500万ドル(約462億円)が費やされた一大プロジェクトであり、世界中の人々が固唾をのんで、その成否を見守ることでしょう。
果たして、結果はどうなるのか? 来週27日の「NASA TV」に注目です。
(ジョンズ・ホプキンス大学のDART計画のホームページでは、すでにカウントダウンも始まっています)