多様な生物をターゲットとする雑食家だった?
今回調査されたのは、約1億2000万年前の白亜紀前期に生息していた羽毛恐竜「ミクロラプトル・ザオイアヌス(Microraptor zhaoianus)」の化石です。
ミクロラプトルは肉食のドロマエオサウルス科に属する鳥類型恐竜で、今日の中国に生息していました。
体サイズはイエネコほどで、長い尾羽を持っています。
生態としては基本的に樹上性で、木から木へと滑空して移動し、トカゲやヘビ、鳥などを食べていたことが化石から分かっています。
本研究で用いられたのは、2000年に中国西部の地層で見つかったミクロラプトルの化石です。
発見からすでに20年以上が経過していますが、研究チームは、他の研究者がこれまで見逃していたものに気づきました。
ミクロラプトルの胸郭部にある肋骨の間に、長さ1センチほどの小型哺乳類の足の骨を発見したのです。
哺乳類の足はほぼ完全な状態で残っており、そのサイズから現代のネズミくらいの大きさがあったと推測されています。
まだ今のところ、どの種の哺乳類であったかは特定されていません。
現生するポッサムに似た細いつま先を持っていましたが、長さはポッサムより短いといいます。
その一方で、足の骨の分析から、この哺乳類が地上をメインに生活し、木に登るのは得意ではなかったことが示唆されました。
これは、ミクロラプトルがほとんどの時間を樹上で過ごしていたことを踏まえると、興味深い指摘です。
ミクロラプトルはトカゲやヘビ、鳥を食べていたことが分かっていますが、それらはどれも木の上でゲットできた生き物でしょう。
しかし今回の新たな発見は、ミクロラプトルが樹上の獲物に限定せず、地上の哺乳類も食べていたことを示唆するものです。
彼らが地上に降りて直接捕食したのか、それともすでに死んでいたものを拾い食いしたのかは定かでありませんが、ミクロラプトルが従来考えられていたよりも多様な食生活を送っていたことが伺えます。
マギル大の古生物学者であるハンス・ラーション(Hans Larsson)氏は「最初見つけたときは信じられなかった」と驚きを口にしました。
「恐竜の化石の中に他の生物が見つかるのは極めて稀であり、しかも、恐竜が哺乳類を食べた直接的な証拠としては初めてです」
また、ミクロラプトルが偏食家ではなく、多様な獲物をターゲットとする雑食家であったことは、恐竜時代の生態系がどのように機能していたかについて新たな視点をもたらしてくれます。
たとえば、今日のキツネやカラスのような雑食動物は、ある獲物の個体数がガクンと減ったときに、それを執拗に食べ続けるのではなく、柔軟に他の獲物なり植物なりに切り替えられます。
そうすることで、生態系の重要な安定剤となりうるのです。
もしかしたらミクロラプトルも「鳥がいないときはトカゲを、トカゲがいないときは哺乳類を」というように、柔軟に対処していたのかもしれません。