昆虫を使ったエコな「廃棄物処理プラント」が作れる?
今日、世界で生産される食料の約3分の1が消費されずに廃棄されています。
食品廃棄物は主に加熱焼却により処理されており、温暖化の原因である温室効果ガスの発生源として問題視されていました。
これと別に、食品廃棄物は動植物に由来することから養分とエネルギーを有しており、資源として再利用できる潜在性を秘めています。
しかし、その効果的かつ経済性のあるリサイクル技術はまだ確立されていません。
こうした問題を解決するために白羽の矢が立ったのが「アメリカミズアブ(学名: Hermetia illucens)」(以下、ミズアブ)です。
ミズアブの幼虫は、食品ロスや生ゴミ、糞尿などを栄養源として発育できることが知られています。
彼らを利用すれば、温室効果ガスを出すことなく、廃棄物をやさしく分解・処理できるかもしれません。
加えて、成虫に育ったミズアブはニワトリや養殖魚の貴重なタンパク源として再利用できます。
つまり、想像するとちょっと不気味ですが、ミズアブを中心としたエコフレンドリーな廃棄物処理プラントの建設が期待できるのです。
ミズアブを加えることで「悪臭」が激減
さらに研究チームは、食品廃棄物の処理において最大の難敵となる「悪臭」の問題も解決してくれることを明らかにしました。
チームは今回、
・ミズアブが腸内細菌叢の力を借りて有機物を効率よく分解すること
・食品廃棄物をミズアブのエサとして飼育した残渣(ざんさ)には腸内細菌が大量に含まれること
に注目。
ここでの残渣とは、食品廃棄物でミズアブを飼育し、幼虫を回収した後の残りかすのことです。
ミズアブの食べ残しや糞尿からなり、彼らの腸内細菌が大量に含まれています。
これらの腸内細菌は食品廃棄物に含まれる腐敗菌の増殖を抑えるとともに、食品廃棄物をミズアブが消化しやすい状態に発酵させていると考えられます。
そこでチームは実験として、容器中の食品廃棄物にミズアブ幼虫を3頭または10頭を投入して7日間飼育する場合と、食品廃棄物のみ放置してミズアブを飼育しない場合で臭気の成分を比較しました。
その結果、食品廃棄物でミズアブを飼育すると、ミズアブなしで放置した場合と比べて、悪臭の主原因である二硫化メチルや三硫化メチル等が激減していたのです。
それから食品廃棄物内で増殖する腐敗菌の種類を比較したところ、ミズアブを飼育した食品廃棄物では腐敗菌の種数が大幅に減少していました。
ミズアブの腸内細菌が、悪臭の原因物質を代謝・分解したことで悪臭の発生が抑制されたと考えられます。
さらにミズアブを飼育した後の残渣を、飼育前のエサとなる食品廃棄物にあらかじめ加えることで、腐敗に伴い発生する臭気を最大7分の1にまで抑制できることも明らかになりました。
これにより、ミズアブ飼育の際に食品廃棄物から発生する臭気が抑えられ、ミズアブを利用した廃棄物処理プラントを建設する際の悪臭問題を予防することができます。
また、この技術は導入が簡単であり、追加の投資もほぼ不要であることから、ミズアブによる食品廃棄物処理の利用拡大に大きく貢献します。
生ゴミの悪臭を抑え、貴重なタンパク源にもなるミズアブは今後の温暖化対策やゴミ問題の救世主になるかもしれません。