砂漠のトカゲの皮膚に触発されたカプセルの表面構造
研究チームは、課題に取り組むために、オーストラリアの砂漠に生息するモロクトカゲ(学名:Moloch horridus)の特殊な皮膚に着目しました。
モロクトカゲが乾燥した砂漠でも生きていけるのは、水分を集めやすい特殊な皮膚のおかげです。
このトカゲの全身の皮膚には細い溝が入っており、すべて口に繋がっています。
皮膚に付着した水は、毛細管現象(細い管の内側の液体が静電気力によって管の中を移動する現象)によって自然と口元に集まるため、体全体に付着した水分を効率的に集めて飲むことができるのです。
ちなみに、この時作用する毛細管現象は、重力に逆らって水分を移動させることもあります。
研究チームは、モロクトカゲのように毛細管現象を生じさせる溝をカプセル表面に追加しました。
しかもこの溝には親水性コーティングが施されており、より水を引き付けやすくなっています。
これにより、カプセルが胃に接触することで表面の胃液を吸収し、電極(溝と溝の間の山部分)と胃組織が直に接触できるのです。
またカプセル内部にはバッテリーと電子部品が内蔵されています。
この新しい電気刺激カプセルは「FLASH」と名付けられました。
今回の研究で使用されたプロトタイプでは電流が常に流れた状態ですが、将来的にはワイヤレスで電流のON/OFFを切り替える機能が追加されるでしょう。
そしてFLASHをブタの胃に投与する実験では、FLASH摂取後20分以内に効果が発揮され、約1時間にわたって血中グレリン値を大幅に上昇させることに成功しました。
そしてカプセルは最終的に糞便と共に排出され、有害な副作用は観察されませんでした。
ラマディ氏は、「カプセルの電気刺激で、体内ホルモンのレベルを上昇させた最初の例」だと主張しています。
研究チームは、FLASHを消化管の他の部分にも応用する予定であり、3年以内には、人間の患者でテストしたいと考えています。
近い将来、食欲不振や吐き気で苦しんでいる人が、カプセルを飲み込むだけで再び食事を楽しめるようになるかもしれません。