飢えると肉食化する植物の変身条件を解明!
西アフリカの熱帯地方に生息する、つる植物「トリフィオフィルム・ペルタトゥム(T・peltatum)」は3つの点において、非常に「特別」な植物です。
1つは医学的に有用な複数の物質を含んでいる点にあります。
T・peltatumに含まれる成分には、抗腫瘍活性があることが知られており、膵臓がんや白血病の細胞に対する有効性が期待されています。
他にもT・peltatumの成分はマラリア原虫の駆除やその他の病原の原因となる細菌を殺す作用があることが示されています。
また民間療法において根は下剤になるとされており、他にもリベリアなどでは樹皮を象皮膚病の患部に塗ったり、生理痛など女性特有の腹部の痛みを抑える湿布薬として使われています。
2つ目の特別な点は、世界で唯一の「特定の条件下で肉食化」するという点です。
世界には数多くの食虫植物が存在しますが、既知の食虫植物たちは育成過程において少なくとも1度は必ず、動物をとらえるトラップ部分を持ちます。
しかしT・peltatumは場合によっては食虫植物として必須のトラップ部分を持たず、光合成だけをして一生を過ごすことも可能となっています。
このような条件付き食虫植物はT・peltatum以外に存在しません。
またT・peltatumが肉食化する条件も不明となっていました。
そして3つ目の特別な点は、極めて栽培が難しいことにありまました。
そのためT・peltatumは広く注目を浴びている植物でありながら、ほとんど研究が進んでいませんでした。
そこでハノーファー大学とヴュルツブルグ大学は試行錯誤の末にT・peltatumの効果的な栽培方法を確立することに成功し、続いてT・peltatumが肉食化する条件を探索することにしました。
調査に当たってはT・peltatumにさまざまなストレスを与えたり、植物の3大栄養素として知られる窒素・リン・カリウムなど特定の栄養素が不足した条件で育てられました。
すると、リンが欠乏した条件においてのみ、T・peltatumにトラップ用の葉が生成され、食虫植物形態への変身が起こることが判明します。
食虫植物形態では細長く茎のように変化した葉が伸びて、粘着性のある透明な液体を分泌し、捕らえられた虫などの獲物を消化液で溶かします。
しかし、なぜT・peltatumはリンの欠乏に反応して食虫植物形態に変身を起こすのでしょうか?
その答えは植物におけるリンの重要性にありました。
植物においてリン(P)は窒素やカリウムと並んで植物が成長のために最も必要な3大栄養素の1つであり、生命の設計図であるDNAや細胞膜の部品であるほかに、生命活動において「エネルギーの通貨」の役割をするATPにも必須となっています。
しかしT・peltatumの元々の生息地は極めて酸性度が高く、鉄やアルミを多く含む風化が進んだ土地となっています。
酸性度が高く風化した土地では、土壌のリンが鉄やアルミと結合してしまうため植物が利用できるリンが極端に少なくなります。
さらにT・peltatumの故郷では5月から11月が雨が少ない乾季となっており、ただでさえ少ないリンが土壌中に拡散するのを妨げてしまします。
一方、エサとなる昆虫の体にはリンをはじめとして多くの栄養素が含まれています。
そのため研究者たちは、極端に土壌のリンが限られた環境が、T・peltatumにリン欠乏に反応して肉食化する仕組みを与えたと考えています。
また常に肉食化を起こさない理由としては、昆虫を捕らえるトラップ用の葉のコストが高いことが原因だと推測されています。
一方、光合成を専門とする普通の葉はローコストで生産できるため、十分なリンを獲物から確保した後は、普通の葉だけを作ったほうがお得となります。
研究者たちはリンの量に反応するT・peltatumの仕組みを解明することができれば、食虫植物がどのように特殊な分子システムを作り上げたか、その起源に迫れる可能性があると述べています。