植物は「触れられた瞬間」と「離れた瞬間」がわかる
研究チームは今回、シロイヌナズナ(学名:Arabidopsis thaliana)とタバコ(学名:Nicotiana tabacum)を含む12種類の植物で合計84回の触覚テストを行いました。
これらの植物はあらかじめ、カルシウムセンサーを含むように育てられています。
カルシウムセンサーとは、植物が触れられたときの細胞内のカルシウムイオンの動きを可視化できる技術です。
触覚テストでは、植物の葉っぱを顕微鏡下に置き、マイクロカンチレバーという極細のガラス棒を使って、個々の細胞にわずかな刺激を与えました。
ガラス棒の触る強さや長さによって反応は変わりましたが、すべてに共通していたのは触ったときと離したときの反応の仕方でした。
ガラス棒で触られた植物細胞は30秒以内に、細胞内のカルシウムイオンの波を隣接する細胞にゆっくり伝えていったのです。
カルシウムイオンの波は触れた点から同心円状に広がっていき、約3~5分持続することが確認されました。
こちらは触られたときに発生する「ゆっくりしたカルシウムイオンの波」です。
さらにガラス棒を接触点から離すと、今度はほぼ瞬時により速い波が同心円状に発生して、1分以内に消滅しました。
こちらは離れたときに発生する「すばやいカルシウムイオンの波」です。
チームはこのカルシウムイオンの波の発生原因について「植物細胞の中の圧力変化によるもの」と指摘します。
動物細胞は加えられた圧力が細胞の膜をすり抜けられるようになっていますが、植物細胞は簡単に破れない強固な細胞壁を持っているため、軽く触れただけでも細胞内の圧力が一時的に上昇するのです。
この圧力説を検証するため、植物細胞の中に特殊な器具を刺し込んで、機械的に圧力を上げたり下げたりしてみました。
その結果、ガラス棒で触れたとき、また離れたときと同じカルシウムイオンの波が発生することが確認されています。
よって植物は、細胞内にかかる圧力の増減を介して、何かに触れられたときと何かが離れたときを識別しているようです。
研究主任のマイケル・ノブラウ(Michael Knoblauch)氏はこう述べています。
「私たちヒトを含む動物は神経細胞を通じて触覚を感じることができます。
しかし神経のない植物が、これほど細かなレベルで触覚を感じ分けられる繊細な感受性を持っていることは本当に驚くべきことです」
触覚を見分けることに何のメリットがあるだろうか?
一方で、何かに触れられたときと何かが離れていったときの違いを識別することに、何のメリットがあるのかはまだ解明されていません。
植物の触覚に関する研究はいくつもありますが、そのほとんどは、触覚が植物にとって何らかの利益をもたらしていることを示していました。
例えば、植物の葉っぱがイモムシに齧られたことを察知すると、昆虫にとって美味しくない化学物質を分泌します。
それからオジギソウの研究では、葉っぱが傷つけられると全身に電気シグナルを送り、昆虫の食害から身を守るために葉をパタパタと閉じていきます。
今回見つかった触覚への新たな反応は、オジギソウのように目に見える形で現れるものではないので、植物の内部でやり取りされる情報なのかもしれません。
研究チームは次のステップとして、触覚により発生するカルシウムイオンの波が、植物の細胞や遺伝子にとってどんな作用があるのかを明らかにしていく予定です。
しかし、植物が私たちのボディタッチをちゃんと感じ取っているのは確かでしょう。