音を「量子的重ね合わせ」にすることに成功!「聞こえる+聞こえない」の不思議
音を「量子的重ね合わせ」にすることに成功!「聞こえる+聞こえない」の不思議 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部
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音を「量子的重ね合わせ」にすることに成功!「聞こえる+聞こえない」の不思議 (3/3)

2023.06.23 18:00:15 Friday

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フォノンは「質の悪い壁」で量子状態になる

フォノンを量子的な重ね合わせ状態にしてみた

フォノンを量子的な重ね合わせ状態にしてみた
フォノンを量子的な重ね合わせ状態にしてみた / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

フォノンを重ね合わせ状態にする装置とはどんなものなのか?

研究者たちが手作りで開発した装置「音響スプリッター」は上の図のような設計になっています。

この装置の左右にはフォノンの送信(スピーカー)と受信(マイク)を担う量子ビットが備え付けられており、中央部にはスプリッターの「半透明なガラス」と同じ役割をするアルミニウム壁が存在します。

このアルミ製スプリッターは「質の悪い壁」のような特徴を持っており、音をランダムに反射させたり透過させたりします。

建築で使われたら中途半端な防音性能を持つ困った壁ですが、これは実験装置内部で1個のフォノンが「反射した現実」と「透過した現実」が重なり合う状態になり、フォノンが重ね合わせ状態になります。

研究者たちがアルミ製スプリッターの状態を操作して観測された反射と透過の割合を調べたところ、結果は古典物理学で説明できず、量子力学の法則に従うことが示されました。

この結果は、音も量子的な状態にさせて「聞こえる状態」と「聞こえない状態」を重ね合わせにできることを示します。

フォノンにもっと奇妙な量子現象を起こしてみた

次に研究者たちは、より不可解な量子現象として知られる「ホン・オウ・マンデル効果」がフォノンにも起こるかを調べることにしました。

この「ホン・オウ・マンデル効果」はかなりややこしいので、面倒ならこの部分の説明は読み飛ばしても構いません。

時間差をつけて2つの光子Aと光子Bをスプリッターに命中させた
時間差をつけて2つの光子Aと光子Bをスプリッターに命中させた / Credit:wikipedia

通常、時間差をつけて2つの子Aと光子Bをスプリッターに命中させたなら、それぞれの光子は反射と透過をランダムに行い、両側の光子検出器は同じ数の光子を記録するでしょう。

具体的に言えば、上の図の示すような4通りのパターンが出現します。①「光子A反射・光子B透過」②「光子A透過・光子B透過」③「光子A反射・光子B反射」④「光子A透過・光子B反射」

同じ性質を持つならばスプリッターから出た後の挙動も同じになり、検出器にはつねに2つの光子が同時に記録されるようになります。
同じ性質を持つならばスプリッターから出た後の挙動も同じになり、検出器にはつねに2つの光子が同時に記録されるようになります。 / Credit:wikipedia

「ホン・オウ・マンデル効果」は反対方向からやってきた2つの光子が全く同じタイミングでスプリッターに入る時に起こります。

同じタイミングで2つの光子がスプリッターに命中すると、光子たちは区別ができなくなって、勝手に同じ性質を持つものに変化してしまいます。

そして同じ性質を持つならばスプリッターから出た後の挙動も同じになり、検出器にはつねに2つの光子が同時に記録されるようになります。

(※上の図で言えば①か④の結果しか出なくなります)

この結果について「意味不明すぎる」「常識としてあり得ない」「納得いかない」という感想を持つ人が多いでしょう。

同じタイミングで同じ場所にいる光子たちの区別がつかなくなるのはまだいいとして、その後の挙動まで一致してしまうのは「ニュートン物理学」ではありえません。

古典物理学のいかなる法則を用いても、この「ホン・オウ・マンデル効果」は説明できないのです。

故に逆説的ながら「ホン・オウ・マンデル効果」が確認できた粒子には、古典物理学では説明できない量子的状態になっていると言えるのです。

今回の研究では、同じことがフォノンでも起こるかが確かめられました。

結果、フォノンでも「ホン・オウ・マンデル効果」が起きていることが確認され、量子的現象が起きていることが示されました。

フォノンには数千億個から数兆個の分子が含まれている

フォノンには数千億個から数兆個の分子が含まれている
フォノンには数千億個から数兆個の分子が含まれている / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

今回の研究により、音の粒子フォノンにも光子と同じように重ね合わせ状態(もつれ状態)になれることが示されました。

現在、光子の量子的な性質を利用したコンピューターの開発が続いていますが、フォノンの量子的特性を追加することでコンピューターの論理回路を「光と音」で作動させられるようになるでしょう。

またフォノンの量子的振る舞いは、量子物理学がどこまでサイズアップできるか?という興味深い疑問にも役立つでしょう。

フォノンは数千億から数兆個に及ぶ分子の振動パターンによって構成されています。

今回の実験で使われたフォノンは人間の可聴域の100万倍にもなる超高音でしたが、フォノンの波長を長くしていくことで、理論上1つのフォノンサイズを数メートルにも拡大することができるはずです。

そうなるとフォノンの振動にかかわる分子数は莫大な量になり、巨視的物体に現れる量子効果を調べるいいモデルにもなるでしょう。

もしかしたら将来、フォノンの量子的特性を利用した「音の量子コンピュータ」も重要な技術になるかもしれません。

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