研究者「デンキウナギの放電って遺伝子導入に使えるかも」
南米アマゾン川流域に生息する「デンキウナギ(学名:Electrophorus electricus)」は、地球上で最大の発電生物であり、最高860ボルトの放電ができます。
860ボルトというと、大きな牛や馬を失神させるのに十分な強さです。
デンキウナギは短時間で瞬間的に流れるパルス電流を繰り返し放出することで、餌となる魚を仕留めたり、襲ってきた天敵にダメージを与えます。
話は変わって、細胞生物学には「エレクトロポーション」と呼ばれる遺伝子導入の手法があります。
これはレシピエント(受け取り手)となる生物の細胞をDNA溶液に浸し、機械からパルス電流を与えることで細胞膜に穴を開けてDNA分子を入れ込む方法です(下図を参照)。
遺伝子導入は、細胞内で特定の遺伝子を発現させることで起きる効果を見たり、その発現によって作られる遺伝子産物を得る目的があります。
ただエレクトロポーションはあくまで実験室で人為的にのみ引き起こされる現象でした。
そんな中、研究主任の飯田 敦夫(いいだ・あつお)氏は2020年6月、新幹線で帰宅中に何気ない妄想からイメージを膨らませる中で、突如として奇抜なアイデアを思いつきます。
それが「デンキウナギの放電を使うことで、エレクトロポーションと同じ遺伝子導入を再現できるのではないか」ということでした。
同氏は、河川環境でデンキウナギが放電した際に、近くにいる生物の細胞に作用して、水中に漂っている環境DNAが細胞内に取り込まれる可能性があると仮説を立てたのです。
実際、デンキウナギの放電は、エレクトロポーションで使う装置よりも遥かに高い電圧の電気を発生させています。
すぐに研究室の教授に提案したところ「面白そうだから、やってみればいいよ」と返事をもらい、本格的に実験がスタートしました。