ワープドライブの基礎理論
大学で物理学を学ぶ学生たちの多くは、早い段階でアインシュタインの記した相対性理論について学び、宇宙のあらゆる物体や現象(重力や磁気も)は「光速を超えない」ことを知ります。
「光速を超えられない」というのは理論だけのものではありません。
実際、これまで宇宙望遠鏡で観測されたあらゆる現象の中に「超光速」は存在せず、相対性理論の信ぴょう性を高めることになりました。
そのため物理学のクラスを受講し終えた大学生たちの多くは、SFなどに登場する「ワープ技術」は完全な夢物語に過ぎないと断言するようになります。
しかし近年の研究により、超光速を禁じる相対性理論をベースにしながら、実質的なワープが理論的に可能であることがわかってきました。
例えば、現在最も研究が進んでいる「ワープバブル」を使った理論では、宇宙船の周囲の空間の圧縮や拡大といった方法で、実質的なワープを目指しています。
たとえば1光年先の星に行きたい場合、前方の空間を1光年から1kmに圧縮することができれば、簡単に辿り着くことが可能です。
「そんなことは不可能だ」と言う人もいるでしょうが、ブラックホールのような天体では極めて大規模な空間の圧縮が起きていることが知られています。
これまでの宇宙観測で超光速現象が確認されていないのは確かですが、空間の圧縮や膨張を示す多くの証拠が得られています。
ただ空間を伸び縮みさせただけでは、そこを通過する宇宙船も縮尺比に合わせて伸びたり縮んだりしてしまいます。
そのため1光年を1kmに圧縮しても、宇宙船が同じような比率で空間と一緒に圧縮してしまえば、内部の宇宙船にとっての道のりは1光年のままです。
そこでワープバブル理論では外部の空間の歪みから宇宙船を守るためのバブル(泡)を展開するというアイディアが用いられています。
このバブル内部は通常の空間が維持されており、宇宙船はバブルに包まれている間は外部空間の伸縮の影響を受けません。
もっとも、ワープバブルを使ったワープを実現するには、特殊なエネルギー源を見つける必要があるため、現状では実現していません。
しかし先にも述べたように、ワープバブルはそのアイディアの奇抜さの一方で、相対性理論に違反していません。
そのためワープバブルの挙動について、相対性理論をベースにした数値計算である程度予測することが可能となっています。
そこで今回、ワシントン大学の研究者たちは、奇抜なワープ文明の探知手法を思いつきました。
ワープバブルの特性を知ることで、ワープはできないけれどワープしている文明を探そうというアイディアです。