セミは鳥類の出現によって超進化していた!
ムカシゼミ科には約100種類ほどの種類が知られ、生息期間も非常に長かったことから、これまでに数多くのセミ化石が見つかっています。
さらにそれらを年代順に並べることで、体格や翼の変化を追跡することができます。
そこでチームは今回、約90種類のムカシゼミの化石を分析し、時代ごとにどのような進化したかを調査。
その結果、約1億6000万年前のジュラ紀後期を境に急速な進化を遂げていたことが判明したのです。
進化のビフォーアフターを比べると、違いは一目瞭然でした。
初期のムカシゼミは体型が比較的細身で筋肉量が少なく、翅(はね)は短めで楕円形に近いものでした。
また4枚ある翅のうち、前羽に比べて2枚の後ろ翅もかなり大きく、速度のある飛行には不向きだったと考えられています。
ところが約1億年前の白亜紀にいたムカシゼミを見ると、体型がずんぐりと太くなり、筋肉量が増えていました。
2枚の前翅は以前に比べて細長くなり、後ろ翅は非常に小ぢんまりとした三角形になっていたのです(上図の左下を参照)。
これらの変化を踏まえると、ムカシゼミは筋肉量の増加によって翅をより素早く動かせるようになり、翅の形状変化によって揚力の向上と飛行の効率化を起こしたと見られます。
研究者によると、白亜紀にいたムカシゼミは初期の祖先に比べて、筋肉量が平均19%増えており、飛行速度は39%も速くなったと推定されたとのことです。
では何がセミたちの超進化を促したかというと、これは間違いなく鳥類の出現が最大の要因だと考えられています。
セミが急速に進化を始めた約1億6000万年前のジュラ紀は、まさに鳥類たちが台頭を始めた時期とぴったり一致していました。
最初期の鳥類たちの餌がほとんど決まって昆虫だったことを考えると、鳥類による捕食圧がセミたちの進化を加速させた可能性が最も高いのです。
このような”進化の軍拡競争”とも呼べる現象は、自然界では何も珍しいことではありません。
ある種の生物が天敵を出し抜くために新しい能力を進化させると、それに対抗して天敵の方もその能力を上回る能力を進化させるのです。
特に有名なケースが「コウモリvsガ」の進化競争でしょう。
コウモリがエコロケーション(反響定位)によってガの居場所を検出する能力を備えれば、ガはそれに対抗して、コウモリの発する超音波を吸収できる翅を進化させ、自らをステルス化する能力を獲得し始めたのです。
両者の軍拡競争は現在進行形で続いています。
残念ながらムカシゼミ科は絶滅してしまいましたが、いつの時代も、ライバルの存在が生物をネクストステージに引き上げてくれるようです。