サクサク天ぷらの秘密は衣のたんぱく質コントロールにあり
天ぷらが冷めるとべちゃっとしがちな原因はふたつあります。
まずサクサク天ぷらの秘密のひとつは、衣に含まれる水分です。
天ぷらの衣を作るのに水は不可欠ですが、揚げた時に衣からこの水分が抜けきらないと、時間が経つにつれて、べちゃっとした天ぷらになってしまうのです。
天ぷらに限らず、揚げ物は食材の水分を適度に抜きつつ加熱する調理法です。
揚げ物を油に入れた時、音とともに気泡が出てきます。あれは食材と、天ぷらなら衣も含めて、水分が抜けていく状態です。最初は大きかった気泡が、適度に揚がる頃には小さくなっているはずです。それだけ水分が抜けているという合図です。

そのため天ぷらは、衣に水分が多く残っているほど揚げた後でべちゃっとしやすくなるのです。揚げている時の気泡が細かく、うんと少なくなっているかどうかが衣に含まれる水分量の目安になります。
水分は油の温度が低いと抜けにくいですが、温度が高すぎると食材に火が通る前に焦げてしまいます。
そのため、食材の火の通りやすさに合わせた油の温度で、焦げないよう、衣の色を見ながら揚げていく必要があります。
もうひとつの秘密は小麦粉に含まれるたんぱく質の一種グルテニンとグリアジンです。

グルテニンとグリアジンはグルテンになる元の物質です。水を加えて捏ねると網目構造になり、弾力を持つようになります。グルテンはパンを膨らませたり、もっちりさせたりする物質でもあります。サクサク天ぷらとは真逆ですね。
天ぷらの衣のメイン素材、小麦粉は水を加えて混ぜることでグルテンが形成されます。これが衣に必要以上の粘り気を出し、サクサク感を損ねてしまうのです。

しかし、衣に小麦粉は不可欠。タネにしっかり衣をつけるため、多少の粘り気は欲しいですよね。では、どうすればいいのでしょうか。
ひとつは、衣に含まれるグルテンそのものの量を減らすこと。つまり、小麦粉の量を減らし、グルテンフリーの「粉」に置き換えることです。
グルテンフリーの「粉」には、米粉、雑穀粉、でんぷんなどがあるため、衣に使う小麦粉の一部をこれらに置き換えます。
市販の天ぷら粉の原材料を見ると、一番多いものが小麦粉、次がでんぷん、もしくはホワイトソルガム(白たかきび)となっており、小麦粉の一部がグルテンフリーの食材に置き換えられていることがわかります。
もうひとつのグルテン対策、それは、グルテンそのものが作られにくくすることです。
グルテンが作られにくくするために加えるといいのが「酸」。酢やレモン汁を、衣の味が変わらない程度に加えることでグルテンの生成を抑え、粘り気を出しにくくするのです。
しかし、この「酸」は衣の味に影響しやすいため、市販の天ぷら粉に酸が加えられているものは見られません。消費者から「酸味がある」とクレームがくるリスクを避けているのかもしれません。
こうした衣の材料の調整や、油の温度、揚げる時間などを総合して調理するのが「匠の技」というわけです。
市販の天ぷら粉は、こうした匠の技にできるだけ近づけるよう食材を調合しています。
天ぷら粉の中にはベーキングパウダーを含むものもあります。
これはベーキングパウダーが水分と出会って加熱されると二酸化炭素の気泡を生じることから、衣にサクサク感だけでなく、ややふっくらした感じを出すために添加されているものです。
サクサク感をメインにしたいなら、加えなくてもいいかもしれません。ここは好みの問題といえるでしょう。
市販の天ぷら粉を使っても、揚げた後で時間とともに天ぷらがべちゃっとしてしまうようなら、揚げ油の温度や揚げる時間を見直す必要があります。
また、一度にたくさんのタネを油に入れてしまうと、適温だったはずの油の温度が一気に下がり、衣に水分を多く残す原因になってしまいます。
天ぷら屋さんでは、揚げ油に一度にたくさんのタネは入れません。少ないタネをじっくり観察しながら揚げているのです。