ブランド・コミットメント「同じ価格でも高く感じにくい」
ここでさらに、ブランドへの「愛着」という視点を加えてみましょう。
ある研究では、ロイヤルティ(継続購買)とコミットメント(心理的愛着)は必ずしも同じではないと示唆されています。
単に価格が安いから買い続けるだけの人と、「このブランドが好きだから」と買い続ける人では、同じようにリピート購入していても心理面が異なるため、値上げがあった際の反応も変わりやすいのです。
また、別の研究では、商品が持つ機能的価値(実用面)だけでなく、感情的価値(気分が上がる・好ましさ)や社会的価値(見栄え・ステータス)が複合的に作用すると、より強い愛着が生まれることが示されています。
こうした消費者は、少し価格が上乗せされても「むしろその価値に見合う」と判断しやすいわけです。
ここで「端数価格」の話を思い出すと、安く見せるメリットはある一方、アップグレード商品を買ってもらう際には不利になる場合があります。
しかし、もし利用者が「多少高くても欲しい」と思うほどブランドを強く支持していれば、こうした価格のトリックに左右されにくいでしょう。
たとえば高額なスマートフォンの購入で、「appleだから買う」というこだわりが強い人は、端数かどうかに関係なく最上位機種を選ぶことが少なくありません。
「見せかけのロイヤルティ」(価格が安いからだけでリピート)と「真のロイヤルティ」(高くても愛着があるから買う)を区別する動きもあります。
後者の層は、少々の値上げでは購買意欲が揺るぎにくいと報告されています。
つまり、愛着が強いほど「自分にとってこのブランドの製品こそ特別だ」という意識が優先され、内的参照価格や端数価格の設定をそこまで気にしなくなるのです。
このように、私たちが価格を「高い・安い」と判断するときは、心理的な境界線や商品の魅力だけでなく、「そのブランドをどれだけ好きか」も大きく関わります。
500円程度の違いでさえ、ブランドへの思い入れがある人にとっては気にならないことも多いわけです。
同じ500円でも「高い」と感じるかどうかは、感情的価値と内的参照価格の相互作用が大きく左右するということがわかりました。
スターバックスのように特別感を打ち出している場合は、そこに強い愛着を持つ人ほど境界線を気にせず「これくらい出してもいい」と思いやすくなります。
一方、キャベツのように実用性がメインで、相場観を超えた高値がついていると、「たった500円でも非常に高く感じる」といった反応が出やすいわけです。
私たちの「高い・安い」の感覚は単純な金額の問題というより、心理的基準とブランドへの好意が複雑に組み合わさって生まれるのです。
もし買い物で「これ、同じ値段なのに妙に高く感じるな……」と思ったときは、自分がどんな相場観や感情的価値、そしてブランドに愛着を持っているか、少し振り返ってみると新たな発見があるかもしれません。