クジラの「おしっこ」で海が健康になっていた
研究者たちは、クジラがアラスカなどの豊かな海域で食べた栄養素をハワイに移動する中で、尿や排泄物として大量放出することで、海の生態系に栄養を供給していることを明らかにしました。
これにより、アラスカ〜ハワイにかけて栄養素が散布される巨大なルートが出来上がることから、研究者は「巨大クジラ・コンベアベルト(great whale conveyor belt)」と呼んでいます。
実際にチームが計算してみたところ、ザトウクジラやコククジラは年間で約3784トンの窒素と約4万6512トンのバイオマス(生物由来の有機資源)を海の生態系に供給していると推定されたのです。
特に窒素はクジラが排泄する「おしっこ」の中に大量に含まれています。
アイスランドで行われた研究では、ナガスクジラは餌を食べている期間には、1日に約950リットルもの尿を排出していることが示されました。
これは人間の1日あたりの尿量の何百倍にも及びます。

またクジラが海に供給するのはおしっこだけではありません。
彼らの体から剥がれ落ちた皮膚や巨大な亡骸がバイオマスとして海に与えられているのです。
それを微生物たちが分解することで、豊富な栄養素が海へと還元されます。
これは驚くべき量であり、特にハワイのような栄養素が少ない海域では、クジラの尿が植物プランクトンの成長を促し、それを餌とする魚や無脊椎動物、さらにはサメなどの捕食者へと栄養が循環していくことが示唆されました。
このプロセスがなければ、熱帯の海域では栄養が不足し、多くの生物が生存しにくくなる可能性があると研究者は指摘しています。

その一方で、研究者らは19世紀以降に捕鯨産業が盛んになったことで、海に供給される栄養素が大幅に減少した可能性があると話します。
「19世紀以前には、クジラを介した栄養供給は現在の約3倍あっただろう」とチームは見積もっています。
それゆえ、クジラの個体数が回復できれば、海洋の栄養循環が改善し、生態系の健全性が向上する可能性があります。
クジラは単なる巨大な動物ではなく、海洋生態系を支える重要な役割を果たしています。
彼らの尿や排泄物が熱帯海域の栄養供給に貢献し、多くの生物の生存を支えていることが今回の研究で明らかになりました。
これはまるでクジラが「海の農家」として栄養を運び、海を豊かにしているようなものなのです。
クジラに生まれたかったわ
私たち程何のために存在するのか分からない生き物はない