なぜアメリカは高関税をかけたのか?:兵器としての関税
なぜアメリカは高関税をかけたのか?:兵器としての関税 / Credit:clip studio . 川勝康弘
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なぜアメリカは高関税をかけたのか?:兵器としての関税 (7/9)

2025.04.23 18:00:08 Wednesday

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7:日本の立場とジレンマ — 「同盟国」という特別枠をどう活かすか

7:日本の立場とジレンマ — 「同盟国」という特別枠をどう活かすか
7:日本の立場とジレンマ — 「同盟国」という特別枠をどう活かすか / Credit:Canva

日本はアメリカの高関税政策によって、直接的にも大きな影響を受けた国の一つです。

たとえば、2018年以降トランプ政権が繰り広げた強硬な通商措置では、日本からの自動車に25%もの追加関税を課す方針が示され、発表直後には日経平均株価が急落。

日本のGDP成長率が最大0.8ポイント押し下げられる可能性があるとの試算も報じられました。

安全保障面で緊密な同盟関係にあるはずの日本が狙い撃ちされたことは、日本政府にとっても衝撃でした。

実際、トランプ大統領は「敵だろうと味方だろうと、米国を食い物にしてきた国には容赦しない」という趣旨の発言をしており、同盟国だからといって例外扱いはしない姿勢を明確にしていました。

安全保障への依存が大きいがゆえのジレンマ

日本は軍事面や外交面でアメリカとの協力に大きく依存しているため、経済的に痛手を負っても同盟関係を壊すわけにはいきません。

「在日米軍の駐留」「日米防衛協力」「国際的な外交支援」など、米国が担っている役割はあまりにも重要で、一時的な関税対立を理由に関係を悪化させるリスクは大きすぎるのです。

専門家たちも「日本は安全保障や外交など、米国に頼らざるを得ない領域が多く、強く反発するにも限界がある」と指摘します。要するに、日本は経済的打撃を受けつつも、同盟国としてアメリカを支えなければならない「ジレンマ」を抱えているのです。

「特権的パートナー」の地位をどう活かすか

一方で、日本が米国に追従するだけでは終わらず、「同盟国だからこそ得られる特別な交渉の場」を活かす動きもありました。

高関税発動の可能性が取り沙汰されると、日本政府はすぐに代表団をワシントンに派遣し、米通商当局との閣僚級協議を取り付けるなど、粘り強く交渉を試みました。

その結果、対日追加関税が実際に発動されるまで一定の猶予期間を確保し、その間に関税率の引き下げや除外措置を探る時間を得ることに成功しました。

さらに報道によれば、日本側は「在日米軍の駐留経費(いわゆる思いやり予算)の増額」や「米国産農産品の一部関税引き下げ」など、アメリカ側の要求に一定の譲歩も示唆しているとされます。

こうした“取引”を通じ、対米関係を悪化させずに済むよう調整を図っているのです。

同盟関係は「数少ない交渉カード」

要するに、日本にとってアメリカとの同盟は「経済のダメージを最小限に抑えつつ、安全保障も維持するための生命線」でもあります。

相手がどんなに強硬になっても、ある程度は特別な「同盟国枠」として扱ってもらえる可能性が残るからです。

逆に言えば、この特権的立場を失えば、通常の貿易相手と同じく容赦ない高関税の対象になり、さらに大きな損失を被る恐れもあります。

結果的に、日本は「アメリカの高関税政策には反発しつつも、決定的な対立を避け、むしろ同盟というカードを最大限活用しながら譲歩を引き出す」という現実的な道を選んでいるとも言えます。

経済的な自立と安全保障上の依存のバランスをどう取るか──これが日本が抱える大きなジレンマであり、今後も慎重な舵取りが求められるでしょう。

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