2:高関税政策成功のカギ — 「打たれ弱くない」経済と仲間の存在

アメリカが高関税で相手国に打撃を与えようとするとき、当然ながらアメリカ自身も無傷ではいられません。
輸入品に関税をかければ、米国内でその品物を仕入れている消費者や企業はコストが上昇し、物価や生産コストが上がる“痛み”を背負うことになります。
そこで大事なのは、「その痛みにどれだけ耐えられる経済か」という点です。
アメリカは世界最大級の経済大国であり、国内市場(内需)が大きく、貿易依存度(GDPに占める輸出入の比率)が約27%と主要国の中では比較的低い部類に入ります。
たとえばドイツなどは80〜90%もの高い貿易依存度を持ち、関税合戦が起これば輸出の落ち込みは深刻な打撃になりかねません。
しかしアメリカの場合、関税戦争による輸出減や輸入コスト増があっても、「そもそも国内市場が大きい」ため比較的耐えやすい余地があるのです。
実際、米中貿易戦争が激化した頃も、アメリカの景気や雇用はそこまで深刻に落ち込まず、連邦準備制度(FRB)が慌てて金融政策を変えるような事態には至りませんでした。
経済アナリストたちも「アメリカ経済は安定していて、この程度の関税合戦なら粘りきれるだろう」と見ていました。こうした「打たれ強い経済構造」こそが、強気な高関税政策の土台になったのです。
しかし、いくら国内経済が強くても、アメリカ一国で世界中を相手に戦い抜くのは至難の業です。
そこで必要となるのが「仲間」、つまり同盟国や友好国の存在です。
複数の国が足並みをそろえてターゲット国に関税を課せば、その国は行き場を失い、大きな譲歩を迫られやすくなります。
逆に、アメリカに同調する国が少なければ、標的国は第三国を通じて迂回貿易を行い、アメリカの圧力をかわすことができてしまうでしょう。
実際、多くの専門家が「中国のような経済大国と本気で渡り合うには、同盟国との連携が不可欠」と指摘してきました。
ところが、トランプ政権が高関税を乱発した当初、友好国であるはずのEUやカナダに対しても一方的に高関税をちらつかせ、ほとんど“仲間”を怒らせてしまったのです。
この結果、中国に対して本来は一丸となって対峙するはずだった国々の支持を得られず、アメリカはかなり孤立気味の戦いを強いられました。
その反省を踏まえ、バイデン政権下では「同盟国との協調」を重視する路線にシフトしつつあります。高関税のような強硬策も、周りの理解や協力を得てこそ最大の効果を発揮できるからです。
まとめると、高関税政策を成功させるカギは大きく二つあります。
- 自国経済の強靭さ
- 内需が大きく、多少の関税ダメージにも耐えられる構造
- 景気が安定し、失業率が低いなどの下支えがある
- 同盟国や友好国との協力体制
- 複数国が連携して標的国に圧力をかける
- 自国企業への被害を最小化しつつ、相手国に打撃を集中させる
アメリカの場合は、広大な国内市場という経済力と、NATOやアジアの同盟ネットワークなどの外交力をある程度備えていました。
しかし、政策運用を間違えれば仲間を失い、結果的に高関税という「武器」の威力も削がれるのです。こうした背景を踏まえながら、次章ではそれでもなお残る“高関税の限界”について考えていきます。