セクション5:統合戦略のツールとしての高関税

高関税は、単独で魔法の杖のように問題を解決するものではなく、より大きな政策パッケージの一部として位置付けられています。
実際、関税は「不公正な貿易から自国を守る盾であると同時に、地政学的競争の剣でもある」と形容されることがあります。つまり、防御と攻撃の両面で使われるツールの一つとなっているのです。
現在の米国は、高関税を含む統合戦略(Integrated Strategy)で経済面の国家目標を追求しています。
バイデン政権は経済政策の最優先課題を中国との競争に置き、二本柱の戦略を掲げています。
それは「国内の雇用を生む産業を支援(=走る速度を上げる)」と「新たな貿易障壁や輸出規制で中国を減速させる」という方針です。例えば総額527億ドル規模の半導体産業支援策(CHIPS法)によって国内チップ製造を後押ししつつ、先端半導体の対中輸出を厳しく制限しています。
関税措置もこのパッケージの一環であり、国内産業を保護すると同時に、中国側にはコストを強いる圧力手段となっています。
さらに、米国はこうした戦略を同盟国と連携して進めようとしています。
サプライチェーン(供給網)の見直しや先端技術の輸出管理について、欧州や日本などと協調しながら対中包囲網を築く狙いです。
ただ、この統合戦略を同盟国がどこまで受け入れるかは課題でもあり、バイデン政権にとって重要な試金石となっています。
いずれにせよ、高関税は補助金や輸出規制と並ぶ政策ツールの一つであり、単独というより他の施策と組み合わせてこそ効果を発揮する位置付けなのです。
ではそのような統合戦略の狙いとは何なのでしょうか?