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火星の地下には予想より浅い所に液体の水が存在している証拠が示される (3/3)

2025.05.20 21:00:20 Tuesday

前ページ火星の地下5 kmで波打つ“隠れ海”の証拠

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なぜ「深すぎず浅すぎず」の位置に海があるのか?

なぜ「深すぎず浅すぎず」の位置に海があるのか?
なぜ「深すぎず浅すぎず」の位置に海があるのか? / 北半球を覆っていた“ノアキス海”のイメージ/Crerdit:clip studio . 川勝康弘

なぜこの水の層は深さ5~8 km付近に存在するのでしょうか?

ポイントは火星の「地下の温度」と「岩石の孔隙(隙間)」です。

火星には地下数キロメートルまで永久凍土(クリオスフィア)と呼ばれる氷に満たされた層が広がっていると考えられています。

火星は太陽から遠く大気も薄いため地表付近は極めて寒冷で、水があればすぐに凍結してしまいます。

しかし地下深くへ行くにつれて惑星内部からの熱(地熱)によって温度が次第に上昇し、ある深さで氷点下を上回る領域が現れます。

現在の火星では、それがちょうど地下5~8 km付近にあたると考えられるのです。

つまり、それより浅い場所では氷になっていた水も、この深さでは融けて液体として存在できるようになります。

一方で、それより深い部分では岩石の性質が問題になります。

一般に惑星の地殻は深くなるほど上部からの重みで圧縮され、岩石中の隙間(孔隙)は潰れて減少していきます。

水は主に岩石の割れ目や孔隙に蓄えられるため、あまり深くまで降りてしまうと水が留まる空間自体が無くなってしまうと考えられます。

上からの重さで押しつぶされるように、液体の水が存在するのに必要な多孔質(ある意味でスカスカ)な地層が存在し得ないのです。

実際、先行研究では「深さ約11 kmより深い火星の地殻では、孔隙がほとんど消失している」との推定もあります。

このため液体の水が大量に存在できるのは、浅すぎず深すぎない5~8 km付近の層に限られると考えられるのです。

言い換えれば、火星では地下数キロメートルの深さにある「氷の層」(永久凍土)の下端部で氷が融けて水に変わり、しかしさらに深い層では岩石が隙間のない緻密な構造になるため水を保持できない、という状況だと考えられます。

今回示唆された水の層は、火星から失われた「行方不明の水(ミッシングウォーター)」の貯蔵場所として有力な候補かもしれません。

火星にはかつて膨大な水が存在していたものの、その大部分は大気散逸による宇宙空間への流出や、鉱物への吸収(化学的に水分が岩石に取り込まれる現象)、あるいは極冠の氷や地下の氷として残存していると考えられています。

しかし、それらをすべて考慮に入れても説明しきれない「残りの水」が存在し、この行方不明の水がどこにあるのか長年議論されてきました。

研究チームによれば、今回推定された地下水層の水量(全球換算で約520~780 m)は、まさに科学者たちが想定する「火星の残りの水」の量にほぼ一致するといいます。

言い換えれば、火星の失われた水の大部分は地殻深部で液体のまま潜んでいる可能性が高いということです。

地下深部に液体の水が存在し得るという発見は、生命探査の視点からも重要です。

地表が過酷な火星でも、厚い岩盤に覆われた地下深くであれば、内部からの熱で温度が保たれ、岩石によって放射線も遮蔽されるため、微生物が生存し得る環境が維持されている可能性があります。

実際、地球では地下数キロの岩盤中にも微生物圏(ディープバイオスフィア)が広がっていることが知られています。

水さえあれば、火星の地下にも太古の微生物が生き延びているかもしれない――今回の結果はそんな期待を抱かせるものです。

ある研究者も「もし火星に液体の水が存在するなら、微生物活動が存在する可能性があります」と指摘しています。

さらに、大量の水の存在は将来の人類による火星探査や居住の観点でも見逃せません。

水は人類にとって生命維持や資源利用に不可欠ですが、今回示唆された水は深さ5~8 kmにあり、現状の技術では容易に掘り当てて利用することはできないでしょう。

それでも、火星にこれほどの水が残されているという事実は、将来的に技術が進歩すれば人類が利用できる水資源が火星に存在する可能性を示唆しています。

研究に参加したタカルチッチ博士は「この水は、火星での生命や人類の未来に関わる深遠な問いを投げかける」とコメントしました。

火星に人類が赴く未来が訪れた際、この地下水が大きな意味を持つことは間違いありません。

では、この地下深部の「水の世界」の存在を確かめるには、これからどのような探査が必要になるのでしょうか。

今回の結果はあくまでインサイト着陸地点付近の観測データから得られたものであり、火星全体で同様の現象が起きているかどうかは未知数です。

研究チームは、将来より高度な地震計を搭載したミッションを火星に送り、複数の観測点で火震を測定することで、この地下水の広がりや規模を検証できるだろうと述べています。

実際、火星に複数の地震計ネットワークがあれば、今回と同じ手法で他地域の地下構造も調べることができ、地下水が普遍的に存在するかを確認できるでしょう。

また、将来的には火星の地下深部まで掘削して直接水を探る計画や、軌道上からレーダーで地下の構造をマッピングする試みが行われる可能性もあります。

しかしいずれにせよ、今回の発見が火星探査に新たな目標をもたらしたことは確かです。

地表は乾ききった世界に見える火星ですが、その地下深くには“隠れた海”とも言うべき広大な水の貯蔵庫が横たわっているのかもしれません。

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