1人の女性の歯石から明らかになった「4000年前の嗜好」

分析の結果、1人の女性の奥歯3本から採取された歯石サンプルに、現代のビンロウ咀嚼の基準と一致する化合物が検出されました。
検出されたのは、ビンロウに含まれる精神活性化物質アレコリンおよびアレカイジンです。
これらは咀嚼によって唾液とともに口腔内に広がり、継続的な使用によって歯石中に取り込まれると考えられています。
つまり、この女性は一時的に試しただけではなく、繰り返しビンロウを嗜んでいたのです。
これは、歯石分析という新たな技術によって、考古学的に「見えなかった文化行動」を可視化した好例であり、古代人の生活実態に深く迫る画期的な成果です。

この研究は、人類が約4000年前からビンロウが使用してきたことを明らかにしました。
そして、「誰がどのような習慣を持っていたのか」といった情報を個人単位で明らかにでた点でも注目に値します。
またこの手法は、将来的に他の精神活性植物(タバコ、大麻、コカなど)や薬用植物の使用実態の解明にも応用できると期待されています。
人類はどんな植物と出会い、それをどう使い、何を感じてきたのか。
歯石というタイムカプセルを通じて、私たちは過去の人々の“日常の感覚”に触れることができるのです。
「人類は4000年も前から“ハイ”になってきた」
そう考えると、今も昔も“気持ちよさ”を求める本能は、あまり変わっていないのかもしれません。
彼女が歯医者の定期健診とクリーニングを受けていればこの発見はなかったわけですね。