苦情の多い医師は業界からお金をもらいやすい

今回の研究では、アメリカのさまざまな地域で患者からの苦情を記録する「PARS」というシステムを導入している医療機関に所属する医師の記録が調べられました。
対象となったのは71,944人の医師で、2015年7月から2020年6月までの5年間に集められたデータをもとに分析されました。
研究では、医師に対して寄せられた「望まれざる患者からの苦情(UPC)」の件数や深刻さを点数化した「PARSインデックス」と呼ばれるスコアを使いました。
また、同じ期間に各医師が製薬会社や医療機器メーカーなどから受け取った一般的な支払い(研究費以外の講演料や食事、贈り物など)も調べられました。
それぞれの医師について、もっとも高かったPARSインデックスと、もっとも多く受け取った年の支払い額に注目して、両者の関係を調べました。
PARSインデックスは「0(苦情なし)」「1〜20」「21〜50」「51以上」の4段階に、支払い額は「0ドル」「1〜4,999ドル(約50万円未満)」「5,000ドル以上(約50万円以上)」の3段階に分けられました。
アメリカの保健福祉省では、年間5,000ドルを超える支払いがあると「重要な経済的利害関係がある」とされています。この研究でもその基準が使われました。
調査結果によると、全体の約68%の医師が業界から何らかの支払いを受け取っており、そのうち11%は年間5,000ドル(約75万円)を超える高額な支払いを受け取っていました。
また、少なくとも1件の苦情があった医師は43.1%、苦情がなかった医師は56.9%でした。
ここで重要なのは、「患者からの苦情」と「業界からの支払い」が両方とも多い医師が実際に存在していたことです。
たとえば、年間5,000ドル以上の支払いを受け取っていた医師のうち約54%は、患者から1件以上の苦情を受けていました。
さらに、苦情の件数が多い傾向は、受け取った金額が多い医師ほど強く表れていました。
たとえば、最も高いPARSインデックス(51以上)を持つ「問題の多い医師」は、高額な支払いを受け取っていたグループの約6.9%を占めていましたが、まったく支払いを受けていない医師の中では3.1%にとどまりました。
統計の計算によると、もっとも苦情が多い医師は、苦情がなかった医師に比べて、高額な支払いを受け取っているオッズが約1.7倍であることがわかりました。
この結果は、性別や年齢、専門分野、勤務している地域や病院の種類(大学病院かどうか)などを考慮しても変わりませんでした。
実際には、男性医師は女性医師よりも1.9倍ほど高額な支払いを受けやすく、大学病院以外の医師もやや多く支払いを受けていました。
つまり、今回の大規模な調査から、「苦情が多い医師ほど、業界からのお金を多く受け取っている」という傾向がはっきりと見えてきたのです。