遺伝子編集「肉キノコ」は家畜より効率的にタンパク質を生産できる
遺伝子編集「肉キノコ」は家畜より効率的にタンパク質を生産できる / Credit: Xiao Liu
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遺伝子編集「肉キノコ」は家畜より効率的にタンパク質を生産できる

2025.11.26 20:00:29 Wednesday

中国の江南大学(Jiangnan University)で行われた研究によって、食用糸状菌に遺伝子編集を行うことで、従来より2.24倍の効率で糖からタンパク質を生産できる新株の開発に成功しました。

しかも、遺伝子に余分なモノを入れるのではなく、一部の「余分な仕掛け」を取り除く形で改良しており、安全性や受け入れやすさも視野に入っています。

しかもタンパク質の質そのものも向上し、菌体の硬い壁が薄くなったことで“しなやかな肉質”に近づくよう設計されているのです。

私たちは本当に「菌のお肉」を食べる日が来るのでしょうか?

研究内容の詳細は 2025年11月19日に『Trends in Biotechnology』にて発表されました。

Genetically engineered fungi are protein packed, sustainable, and taste similar to meat https://www.eurekalert.org/news-releases/1105614
Dual enhancement of mycoprotein nutrition and sustainability via CRISPR-mediated metabolic engineering of Fusarium venenatum https://doi.org/10.1016/j.tibtech.2025.09.016

遺伝子編集で生まれた“菌のお肉”

遺伝子編集で生まれた“菌のお肉”
遺伝子編集で生まれた“菌のお肉” / Credit:Dual enhancement of mycoprotein nutrition and sustainability via CRISPR-mediated metabolic engineering of Fusarium venenatum

「肉キノコ」と聞くと奇妙に思えるかもしれません。

しかし実際、キノコが属する真類が作るタンパク質は代替肉の有力候補なのです。

例えばフザリウム・ヴェネナートゥム(Fusarium venenatum)という真菌は、自然な風味や繊維質の食感が肉に近く、英国・欧州、米国や中国など世界各地で食品として利用されつつあります。

この菌由来の食品(マイコプロテイン〈真菌タンパク〉)は、牛肉など一部の畜産肉と比べて温室ガス排出量を大きく(約8〜9割)削減でき、必要な農地も9割前後少なくて済むとの報告もあります。

肉の需要拡大に伴う環境問題への対策として、「肉キノコ」は大きな期待を集めています。

コラム:肉キノコの正体とは?

記事では「肉キノコ」と書いてあるため森の奥にドンと生えている巨大なマッシュルームを想像してしまうかもしれません。確かにFusarium venenatum は、キノコと同じ真菌類ですが、実際には目に見える形でキノコのカサを作らないタイプの真菌であり、分類的にはシイタケやベニテングダケ(担子菌)よりもトリュフ(子嚢菌)に近い存在です。また胞子を作る器官が顕微鏡サイズなのも大きな違いです。

この菌が見つかったのは、20世紀後半と比較的最近のことです。イギリスの食品企業グループが「少ない資源でタンパク質を作れそうな微生物はいないか」と土壌サンプルを片っ端から調べていたとき、たまたま一つの試験管の中で、もこもことよく育つ菌が見つかりました。それが後にフザリウム・ヴェネナータムと名付けられ、今回の研究に続く原料候補として育てられていくことになります。

では、この菌はどのくらいの大きさになるのでしょうか。スタート地点は、もちろん肉眼では見えない小さな胞子です。これを糖やアンモニアなどを溶かした培地に入れ、巨大なステンレスタンクの中で温度と酸素を管理しながら育てていきます。最初のうちは、透明なスープの中を細い糸のような菌糸が泳いでいるだけですが、時間がたつとそれらがからまり合い、やがてクリーム色の綿のような“ふわふわしたかたまり”になってきます。さらに発酵が進むと、タンクの中は、細い麺を何層にも重ねたような状態になり、かき混ぜ棒に絡みつく「布」のような塊として肉眼で確認できるようになります。ここまでくると、タンクから培養液ごと取り出してフィルタープレスや遠心分離にかけることで、水を切った「菌糸のペースト」を収穫できます。見た目は、濡れたスポンジか、豆腐カス(おから)をぎゅっと固めたような質感で、ここから味付けや成形をしてナゲットやハンバーグの形にしていきます。

とはいえ、その菌のお肉にも乗り越えるべき壁がありました。

フザリウム・ヴェネナートゥムは細胞の外側を覆う細胞壁が厚く、主成分のキチン(人が消化しにくい食物繊維質)のせいで内部のタンパク質を十分には活かしきれないとされています。

また微生物とはいえ培養には相当な資源を要し、大量の糖や栄養分を加えた培地を大型タンクで発酵させる必要があります。

実際、少量のマイコプロテインを育てるだけでもかなりの糖やエネルギーが必要となり、生産コストや環境負荷の面で改良の余地があると考えられていました。

そこで研究チームは発想を転換しました。

遺伝子を直接いじって、この菌肉の「消化されやすさ」と「育ちやすさ」の両方を良くできないだろうかと考えたのです。

狙ったのはゲノム編集「CRISPR」による菌の体質改善でした。

第一著者の呉暁慧(Xiaohui Wu)氏は「多くの人がマイコプロテインは持続可能だと思っていましたが、生産プロセス全体の環境負荷を下げる方法は十分に検討されていませんでした」と述べています。

菌自体の栄養価と生産効率を遺伝子レベルで底上げできれば、代替タンパク質生産の新しいブレイクスルーになるかもしれません。

果たして、遺伝子の改良で「肉キノコ」の栄養と環境の両立は本当に可能なのでしょうか?

次ページ遺伝子編集で「菌のお肉」の生産速度が88%増加

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