ツチトリモチは光合成ゼロでも葉緑体は働く

研究チームは、日本(本州・九州・沖縄)と台湾に分布する7種・計12集団のツチトリモチ属植物を採取し、その全遺伝情報および遺伝子活性情報を解析しました。
そして葉緑体DNA(葉緑体の設計図)の配列を決定して各種の葉緑体ゲノムを再構築するとともに、核DNAにコードされたタンパク質が細胞内のどこへ送られるかを計算で予測したのです。
さらに、得られた葉緑体と核の遺伝情報から属内の系統樹(進化の樹)を作成し、種間の系統関係や進化の歴史を推定しました。
その結果、ツチトリモチ属(今回解析した7種)すべての葉緑体ゲノムサイズが約14〜16キロ塩基(DNAの長さの単位。1キロ塩基=1000塩基)という極端なミニマムサイズであることが確認されました。
これは一般的な植物(約15万塩基)のわずか1割程度で、葉緑体内の遺伝子は20個前後しか残っていません。
光合成に必要な遺伝子も軒並み消滅していました。
これらは先行研究ともおおむね一致する内容で、ツチトリモチの葉緑体は風前の灯火のような状態でした。
問題はここからです。
核側の遺伝子(トランスクリプトーム)解析を行ったところ、意外な事実が明らかになったのです。
計算結果によれば、なんと700種類以上ものタンパク質が、風前の灯火と思われていた葉緑体に輸送されると予測されたのです。
これら輸送タンパク質の機能を推定すると、アミノ酸や脂肪酸、リボフラビン(ビタミンB₂)など、生きていく上で欠かせない各種の代謝経路(物質を合成する一連の工程)が葉緑体内に残っている可能性が示唆されました。
言い換えれば、葉緑体DNAが極限まで短くなっても、核(細胞の本体)から“部品”であるタンパク質が送り込まれることで、葉緑体という“作業場”は依然として稼働し続けているのです。
先にたとえたように自動車工場が車を作るという主目的を失っても、工場内のいくつかのルートが稼働し、下請け加工のような仕事を行っていたと言えるでしょう。
また系統樹の解析からは、この植物の生殖戦略の進化に関しても興味深い事実が浮かび上がりました。
ツチトリモチ属のうち島嶼部(島々)に生息するいくつかの系統で、雌株しか存在しない集団がそれぞれ独立に出現していることが示唆されたのです。
実際、本研究では日本と台湾に分布するツチトリモチ(Balanophora japonica)やヤクシマツチトリモチ(B. yakushimensis)などが属する系統で雌株だけの集団が報告されており、これらは祖先から受け継いだのではなく別々に単為生殖化した可能性が考えられます。
では、なぜ島の植物は性(オスとの交配)を捨ててしまったのでしょうか?
この問いに対し、研究チームの解析結果は“ある法則”を想起させます。
それは植物生態学で知られるベーカーの法則と呼ばれるものです。
ベーカーの法則によれば、離れた土地へ種子が運ばれた場合、単独の個体で繁殖できる種(自家受粉や単為生殖が可能な種)の方が新天地に定着しやすいとされます。
ツチトリモチ属の場合まさに、島に漂着したたった1粒の種子(育って雌株になる個体)だけでも子孫を増やせるという強みがあったと考えられます。
これは裏を返せば、パートナーを必要としないがゆえにたった一人で旅に出て子孫を広げられる“単独繁栄”戦略です。
そのためツチトリモチ属は孤島の暗く湿った林床(他の植物がほとんど生きられない特化した環境)というニッチにも次々と進出できたのかもしれません。

今回の研究により、ツチトリモチ属が「光合成をやめた植物がどのように姿を変えていくのか」を探る上できわめて有用なモデルであることが示唆されました。
光合成能力の消失、葉緑体ゲノムの極端な縮小、遺伝情報の読み取りルールの改変、さらにはメスだけで繁殖する集団の出現──こうした複数の「極限進化」が一つの系統内で同時に観察できるためです。
得られたゲノムデータや系統樹は今後、他の寄生植物などの研究にも役立つ可能性があります。
例えば、葉緑体の不要な遺伝子を捨て去る仕組みや、単為生殖への切り替えを可能にする遺伝子変異が判明すれば、植物育種や生物学の教科書の説明を見直すきっかけになるかもしれません。




























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この植物がキノコそっくりなのも不思議だな。
キノコと似たような生活してるから収斂進化したのか?
でもこの植物は胞子をばら撒くわけでもないし…?
タニスとは、カニタールとは、何か?と、思ったのか…イッパイ生活した中では、私し達の運命は、決まった。以上。そしてそのナノ粒子とは、素敵と思う事です。以上。