2015年、スペインの研究者たちが、ある地点から別の地点までの磁場の経路が見えない「小さな磁気ワームホール」の開発に成功しました。
A Magnetic Wormhole
https://www.nature.com/articles/srep12488
しかし「ワームホールの開発」と聞いて「キタ!」と思うのはまだ早いです。今回開発されたワームホールでは、スタートレックやインターステラーなどのSF作品に登場するような瞬間的な移動や物質転送はできません。それでもなお、ある地点で消えた磁場がある地点で現れるこの開発は大発見であるといえます。
ワームホールというのは、宇宙間の2つの地点を繋ぐトンネルのことです。今までの研究では、タイムトラベルについての実験が行われていますが、物質を転送できる重力ワームホールのようなものを作ることには成功していません。しかし、電磁力の生成や操作は物理学者の得意とするところです。そこで、バルセロナ大学の研究チームが重力ワームホールの代わりに「磁気ワームホール」が作れるかどうか実験を行いました。
2014年に、研究チームは磁場をある地点から別の地点まで移動させるトンネル装置を開発しました。しかし、これはワームホールと呼べる代物ではありませんでした。なぜならそこでは、磁場を検出不可能にして見えなくすることはできなかったからです。しかし2015年、彼らはトンネルにメタマテリアルとメタサーフェイスを用いることでこの問題を解決しました。つまり、この装置を用いれば、ワームホールの中を通過している最中に磁場は検出されず、突然ワームホールの端から現れるように見えるのです。
これを見たとき、私たちは磁場がどこか別の異次元を通過していると錯覚してしまいます。また、磁石には必ずN極とS極の2つの磁極が存在しますが、トンネル装置の端では1つの磁極しか持たない「磁気モノポール」があたかも存在しているかのように見えてしまいます。
実際、このワームホール装置の磁場は「人の目に」見えないというわけではありません。装置は球体で、強磁性のある面で覆われて内部は超伝導体の層となっており、また、球体の中に円柱のように丸めた磁性体のシートを入れてあります。このように装置を設計することで、磁場を外側からは検出できませんが、私たちのには下の画像のように見えています。
空間を飛び越えられるようなワームホールを作り上げることはできませんでしたが、今回の装置は多くのそれに近づくための機能を持っています。
また、この研究結果は磁場を用いる様々な場面に応用できる可能性を秘めています。たとえば、閉所恐怖症の人が怖がらずにすむMRIや、より的を絞ったMRI撮影装置の開発につながるかもしれません。
via:Science alert / translated & text by Nazology staff
関連記事