地震波の数千のエコーを一度に調べる
通常この手の研究では、地震動記録(サイズモグラム)と呼ばれる単一の地震記録を見ます。
ただ、このデータだけでは、回析したS波のエコーは、ランダムなノイズと区別することが困難です。
しかし、一度にたくさんの地震動記録を見れば、そこに隠れた類似点やパターンから、隠されたエコーを識別することができるかもしれません。
こうした考えから、今回の研究者たちは、「Sequencer(シーケンサー)」というAI(機械学習アルゴリズム)を用いて、1990年から2018年までに記録されたマグニチュード6.5以上の地震動記録を分析したのです。
研究者たちが着目したのは、太平洋盆地を移動する地震波です。これは実に7000に及ぶ地震動記録でした。
「Sequencer」はもともと遠くの星や銀河の放射パターンを解析する目的で、ジョンズ・ホプキンス大学とテルアビブ大学で共同開発されたAIです。
今回の研究は、これを地震記録の解析に利用したのです。
地球科学におけるAI技術は飛躍的に進歩していて、「Sequencer」のような手法を使えば、数千におよぶ地震エコーを体系的に分析して、これまで謎に包まれていたマントル底部の構造を新たな視点で見ることができます。
この結果、すべての地震波経路の約40%にエコーが発生してることが明らかになりました。
研究者たちはエコーがもっと稀なものだと考えていたので、これは非常に驚くべき発見でした。
分析結果は、ハワイのはるか地下のコア-マントル境界に非常に高密度で高温の領域が、広範囲に存在していることを示しています。
こうした構造は、ULVZ(超低速度帯)として知られていて、火山の根っこに当たるようなものです。ここから高温の岩石が上昇して火山島を形成します。
しかし、今回明らかになったULVAは予想を超えた巨大なものでした。ハワイの地下に見つかった構造は、これまで知られている中でも最大のものだったのです。
広い範囲に渡って、コア-マントル境界の構造を、これほど詳細な分解能で包括的に示したのは初めての成果だといいます。
この研究は、プレートテクトニクスや地球進化についても新たな手がかりを提供してくれるものになるだろうとのこと。
AIの分析能力によって、地球の調査も新たなステージに到達しているのかも知れません。
この研究は米国メリーランド大学の研究者D. Kim氏を筆頭とした研究チームより発表され、論文は科学雑誌『Science』に6月12日付で掲載されています。
https://science.sciencemag.org/content/368/6496/1223
reference: phys, University of Maryland/ written by KAIN
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