
- オーストラリアにしか生息しない昆虫の化石がカナダで見つかる
- 過去の大陸移動を踏まえると、オーストラリア〜カナダ間の移動は不可能
- 謎の答えは、気候条件の変動にあることが示唆される
カナダ・ブリティッシュコロンビア州の都市カムループスで、約5000万年前の昆虫の化石が発見されました。
化石に見られる特徴的な翅脈(しみゃく)から、「Nymphidae科」に属する小型昆虫と特定されています。
ところが奇妙なことに、現生するNymphidaeは、地球上でオーストラリアにしか生息していません。なぜ遠い地のカナダで発見されたのでしょうか。
このことから、「カナダとオーストラリアは地理的に繋がっていた」とか「昆虫は地球規模で大移動ができた」という説が浮上しています。
しかし、カナダ・サイモンフレーザー大学とロシア科学アカデミーの共同研究チームは、気候変動にもとづく別の仮説を唱えました。
なぜカナダにいたのか?
ロシア科学アカデミーのウラジミール・マカルキン氏は「Nymphidae科は、約6600万年前に起きた恐竜の絶滅以降、その生態がほとんど知られていません。それ以後の化石としては、今回が世界で4つ目であり、非常に貴重な試料です」と話します。
研究チームは、最初に、カナダとオーストラリアの地理的繋がりと昆虫の大移動説について検討しました。

まず、地球上にある各大陸は、2億年ほど前までパンゲアという超大陸としてひとつに繋がっていました。それが1億8000万年前頃に、北のローラシア大陸、南のゴンドワナ大陸に分裂します。
ローラシア大陸は、その後、ユーラシアと北アメリカ大陸に分かれ、ゴンドワナ大陸は、アフリカ・南アメリカ・インド・オーストラリアなどへと分裂していきました。

そして、化石の昆虫が生きていた5000万年前は、まだ海面が低く、北アメリカ〜アジア間には多くの陸地が露出していました。大西洋も広がっておらず、北アメリカとヨーロッパも高緯度地帯で繋がっていたのです。
サイモンフレーザー大学のブルース・アーチボルド氏は「これに加え、北部の高緯度地域は温暖であったため、さまざまな生物や植物が北部の大陸間で自由に繁殖したでしょう」と説明します。

ところが、北アメリカとオーストラリアの地理的な繋がりはありません。
当時のオーストラリアは、今よりずっと南極大陸に近く、アジア方面からもかなり距離がありました。そのため、カナダとの間には、小さな昆虫ではとても横断できない大海原が存在したのです。
そのため、地理的繋がりや移動説は消えます。
そこで、アーチボルド氏は「気候変動に答えが隠されているのではないか」と考えます。
先ほども指摘したように、当時のカナダは温暖な気候にあり、冬も穏やかで、霧が発生する日もなかったと思われます。そして、今日のオーストラリアはまさにその気候条件に合致します。
おそらくNymphidae科は、こうした冬も温暖な土地にのみ繁殖が限定され、当時のカナダでは繁殖が可能だったと考えられるのです。しかし、次第に北アメリカが寒冷化したことで、カナダから姿を消していったのでしょう。
生き物の分布は、時代ごとの気候に合わせて大きく変わります。化石に見られる生物の秘密を知るには、今日の条件ではなく、過去の地球も考慮しなければなりません。
研究の詳細は、「The Canadian Entomologist」に掲載されました。
https://www.cambridge.org/core/journals/canadian-entomologist/article/new-genus-and-species-of-splitfooted-lacewings-neuroptera-from-the-early-eocene-of-western-canada-and-revision-of-the-subfamily-affinities-of-mesozoic-nymphidae/35D0336C428FCDC02285C8B3E5FC947E
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