150年間の常識を打ち破る
先述の通り、サイリウムなど液体の蛍光染料は強く輝く一方で、固体の蛍光染料の多くはぼんやりとしか輝きませんでした。
これは液体と固体が持つ性質の違いが原因でした。
液体状態では分子間の距離が保てるために、蛍光分子たちは自由に光を発することができます。
しかし固体は分子間の距離がギッチリと詰まってしまうために、蛍光分子が密着して、光が干渉したり、エネルギーの損失が起きていたのです。
そのため現在に至るまで、より光らせたければ蛍光染料を液体の状態を保つことが常識とされていました。
しかしインディアナ大学の研究者たちは、シアノスターと呼ばれる環状の大型分子の中に蛍光分子を格納することで、分子間の距離を保つ方法を開発しました。
シアノスターはプラスに帯電しており、固体に固められても、シアノスターどうしが反発し合って距離をとることが可能。その結果、分子格子と働いて、内部に格納した蛍光分子の発光を保護・維持することができるのです。
そのため、いままで固体状態では蛍光を発しなかったような色素を発光させることができるようになりました。
また蛍光分子をシアノスターに取り込むことで、ペンキや繊維などあらゆる固形素材に混ぜ込むことが可能となった他、3Dプリントのインクとしても使用可能となったとのこと。
今まで固体状態の蛍光染料といえば、ぼんやりと薄く輝くものが主でしたが、これからは多様な形の固形物が、ギラギラと光輝くようになるでしょう。
さしあたっては、サイリウムなどこれまで使い捨てとされてきた蛍光が、何度でも再使用可能な固形スティックに変更されると考えられます。
しかしそれだけではありません。
シアノスターと内部に組み込む分子を変えることで、赤外線のようなエネルギーの低い光を(収束・変調し)、太陽光発電に取り込むことができるようになる可能性もあるのです。