ブーメラン地震
ロマンシェ地震を解析した結果、地震破壊に2つの過程があったと確認されました。
1つは初期破壊が震源深部から浅い位置へ東方向へ進んでいきました。そして2つ目は破壊方向が西向きに逆転し、震源に向かって最大毎秒6キロメートルという速度で逆伝播しながら断層の浅い部分を破壊したのです。
それはまるでブーメランのような現象でした。
一般的には理解し難い伝播の仕方ですが、こうした複雑な地震の破壊成長過程は、シミュレーションなどの理論的な研究では部分的に予想されていましたが、証拠となるものはほとんどありませんでした。
今回そんな特殊な地震が、実際に初めて観測されたのです。
研究チームの1人Hicks氏は、構造が単純なトランスフォーム断層を分析していたつもりだったので、この複雑な地震の動きは予想外だったと語っています。
このような反転がどのように起きたのかについての説明は、研究チームでも今のところ推測の域を出ていません。
研究者たちの予想では、深部で放出された地震初期の破壊エネルギーが、浅い位置に伝わって来た際、地中の地形の影響で西向きに反転したのではないかと考えられています。
単純と考えられたトランスフォーム断層で、こうした複雑な地震が確認されたということは、より複雑な構造を持つ内陸の断層でも、似たような現象が起きる可能性があります。
地震の破壊前線の進行方向や破壊継続時間は、地震の強さや分布に影響する問題です。
今回の研究成果は、さらに詳細な解析を行っていくことで、将来起こりうる巨大地震や、内陸で発生する地震の災害リスクの評価に貢献していくことが期待されています。
この研究は、日本の筑波大学の研究者を含めたイギリス、ドイツの国際共同研究チームより発表され、地球科学全般を取り扱う科学雑誌『Nature Geoscience』に8月10日付けで掲載されています。
https://www.nature.com/articles/s41561-020-0619-9